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第二章【記憶】
2-20 それぞれの思い(6)
しおりを挟む「……ぇ、えっと、」
「ッチ」
掻き回すだけ掻き回した嵐のような三人組は呆気なく去っていき、再びラウルとレオンハルトの二人だけになった六人がけのテーブル。
舌打ちと共に荒々しく元の席へ腰をおろすレオンハルトになんと声をかけたらいいのかわからず、オロオロ立ち尽くすラウルはこういう時の対処法を頭をフル回転させ考えてみたものの、さっぱり思い浮かばなかった。
今までラウルが与えられるがまま読んできた沢山の物語の中は共通してみんな仲良く穏やかな世界。
こんな荒れた雰囲気になる物語は読んだことがなく参考になる知識がゼロと言っていいほどに皆無だった。…し、例え読んでいたとしてもラウルにうまくフォローができたとは自分でも到底思えなかった。
リアムの言った通り、守られるだけ守られ大切なオトモダチひとり慰めることが出来ない無力な自分。
あまりの情けなさに、しゅんと俯いた拍子に目に入った手首は先程レオンハルトに一瞬掴まれた時についたのだろうか…薄らと赤く手痕がつき、その時は気付かなかったレオンハルトの力の強さを連想させた。
なんか、今日は手を引かれてばかりだなぁ……。
そうぼんやり思うと同時に、リカルドに嫌われると本気で泣いた1時間程前の廊下での出来事がもう随分昔の事のようだ……と自分で思ってふと、リカルドとの関わりをそんな風に感じたのはラウルの記憶上、初めての事だと気が付き、「え…」と固まってしまった。
ラウルの記憶はいつだってリカルドと過ごした時間が最新で、会えない時もリカルドの事だけを考えていればそれでよかった幸せな時間。
だけど、一歩足を踏み出した外の世界では瞬く間に色々な事が起こり、出会った人の数だけでもたった2日でラウルがいままで接してきた人のトータルを余裕で越し、リカルドの事を考える時間が圧倒的に減ってしまっていた。
そもそもラウルはこの学院に来れば、リカルドとまた一緒に過ごすことができる、ただそれだけを楽しみにやってきた。
だけど、はじめて間近で魔法を目にした途端、キラキラ輝くその力に魅了され、頭の弱いラウルなりに頑張って勉強して力を身につけ、少しはリカルドの役に立てるようになりたい、使い捨ての盾じゃなくて、使い捨てられない強い剣になりたい――そう思い、新たな目標を秘かに抱き始めていた。
……なのに、肝心のリカルドには無意識で気に触ることをしてしまい失望されかけ、大勢の人混みでは人見知りを発揮し、初対面で複数人からの矢継ぎ早な問いかけにうまく対応ができずパニックに陥り人をイラつかせ、唯一のオトモダチには気の利いた言葉ひとつかけることができない。
リカルドの役に立つどころか、いまさら自覚した自分のポンコツ具合に、ひょあぁ…と衝撃を受けていた。
それでも、ラウルは案外粘り強い根性と図太い神経を持ち合わせていた。
ガーンとショックを受けるのはたった数秒だけ。すぐに自分はダメダメだということを素直に受け入れ、出来ることを少しずつ増やしていけばいいのだと自分を鼓舞するゾーンに突入していた。
そして最終的には学院を卒業後、またリカルドの隣で穏やかに生きていければそれでいい、多くは望まないのだ、と。
ひとりで落ち込み、ひとりで納得する忙しない脳内会議を終え、ふんっと気合いを入れているラウルは知らない。
そんな些細な願いがラウルにとって一番叶えることの出来ない未来だということを――
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