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第二章【記憶】
2-18 それぞれの思い(4)
しおりを挟むそろそろと顔を上げ、「リカ様…?」とそれしか単語を知らない小さな子供のようにきょとんと呟くラウル的には、リカルドの話題には人見知りをも突破し積極的に参加していきたい気持ちのあらわれだったのだが、隣からは盛大なため息と共に「このバカ……」と呆れた言葉を送られた。
「んなっ!?」
突然のバカ呼ばわりに目を見開き、何故!心外です!と猛抗議をしようとしたその刹那、「ラウルくん」と静かながらに圧を感じる声音で名前を呼ばれラウルの動きがビクッと止まる。
身体はレオンハルトに向けたまま、目線だけをギギギギ…と錆びたブリキのようにぎこちなく動かせば、向かいに座った三人組は獲物が網にかかったとでも言うように目を光らせ、食い気味に質問を投げてきた。
「ラウルくんは、リカルド様とご兄弟…でよかったかな?」
「え、えと、はい、そうです…」
「血は繋がっているの?」
「血は…繋がってない…です…」
「さっきの魔力測定凄かったね、ラウルくん自身どこの家系の生まれなの?その力を見込んでラポワント家に引き取られたってことだよね?」
「……う、えと」
「アルフレッド様ともお近付きになったみたいだけど前から面識はあったの?」
「え、え、えっと…」
代わる代わる矢継ぎ早に発言してくる三人にラウルの頭の処理はとうとう追いつかなくなった。
焦れば焦るほど意味の無い言葉しか出てこなくなり、目線は忙しなく動き回りもごもごしていると再度冷たい声に「ラウルくん」と名前を呼ばれた。
ビクッと肩が跳ね、胸の前で握った手がどんどん冷えていく。
どうしようどうしよう、何を聞かれてたんだっけ、えっと――頭の中は軽いパニック状況に陥っていた。
ラウルは言葉のキャッチボールが苦手だ。
長年過ごしたラポワントの御屋敷では決まった人としか接する機会はなく、みなラウルの言葉をゆっくり優しく待ってくれる。たまに言葉を交わすリカルドの父サムエルとだけがラウルが緊張する唯一の瞬間だった。そんなサムエルにも、ビクビクせず答えなさいと注意はされど急かされることは無かった。
「ねぇラウルくん」
「話聞いてる?」
「何この子、イライラする…」
ボソリと呟かれた何気ない言葉が鋭い刃となりラウルを攻撃する。
次第にはっ、は、と浅くなる呼吸、手は冷たいを通り越し感覚を失い小刻みに震えてしまう。
涙で滲む目をぎゅっと強く瞑り真っ暗になった視界にさらに不安に陥りかけた瞬間、大きく暖かい手に優しく頭を引き寄せられた。
「ラウル、落ち着け」
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