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第二章【記憶】

2-12 未知数の魔力(4)

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 その背中が遠のいてしまう。
 
 

「っは、は、待って、くださ――」
 
 
 前を行くその人はただ普通に歩いているだけなのに、歩幅の差でどんどん広がる距離をなんとか埋めようと無い体力をふりしぼり本人なりの全速力で走るラウルだったが、その速度はアルフレッドの歩く速さに到底追いつきそうになかった。
 さらに、走りながらの声掛けは息が切れ、ほとんど蚊の鳴くような声でアルフレッドには届かない。
 それでも何故か諦めず追いかけ続けるラウル……が、
 
 
「先輩待っ――へぁっぶ!」
「は!?」
 
 
 とうとう体力の限界を感じた末に、足がもつれ絡まり派手な音を立てて顔面から地面へダイブしてしまった。
 そのあまりにも豪快な音に振り返ったアルフレッドは視界の下の方でうつ伏せに転ぶラウルに気付くとさすがに驚き慌てて駆け戻った。
 
 
「おいっ大丈夫か?何やってんだお前…」
「ううぅ…い、たた…ぁっ、アル先輩!捕まえた」
 
 
 すぐ目の前に膝を着き呼び掛けるとヨロヨロ顔を上げたラウルはおでこと鼻を赤く染め確実に痛いだろうに、アルフレッドを逃がすまいという意志を示すように制服の袖をぎゅっと握り、にへっと笑う姿に虚をつかれたように目を丸くするアルフレッド。


 瞬間、その姿が3歳児のあの子と重なった。
 
 
『兄たまつかまえた~ひひっ』
 

 
「――?アルフレッド先輩?」
「っ、あ、」
 
 
 何故こうも頻繁にあの子の面影を重ねてしまうのか混乱する頭を軽く振り、あー…と低い声を洩らすと、決まりの悪さを誤魔化すべくいまだ地面に横たわったままのラウルを起こすためその両脇に手を差し入れ、立ち上がる手助けをするつもり……が、やってからついしまった記憶に引きづられた、と苦い顔を洩らす。
 さすがにこの起こし方は無いかと一瞬止まるも、当の本人はされるがまま抵抗の様子も見せないためマジか…と思いつつそのまま3歳児にやっていたまんまの要領で持ち上げた。

 抱き起こされたラウルは軽く制服をはたくと、今更転んだことや抱き起こしてもらった事が恥ずかしくなったのか、ふわふわの髪の毛の両サイドを掴んでは顔を隠そうとなにか無駄な抵抗を始めていた。
 そんなイジイジする様子にイラッとしたアルフレッドは、大きく広げた手の平をラウルの顔面目前に伸ばすと、次の瞬間、前髪ごと全ての毛を後ろに思いっきり流し、ラウルの驚いた表情がなんの隔てもなく全開にさらされた。
 
 
「イジイジすんな」
「ひゃい…」
 
 
 一々迫力あるアルフレッドに若干涙目になりながらも、泣かない、と歯を食いしばりじっと目を合わせていると、ひとつため息をついたアルフレッドはもう片方の手をスラックスのポッケに突っ込み、髪を抑えていた方の手はそのままラウルの頭をまるでちょうどいい高さにある手置きのように体重をかけて置いてきた。
 
 
「一々怯えんな。誰も取って食ったりしねーよ」
「おも、重いです…」
「ここまで追いかけてきてなんか用か?」
「このままですかぁ…」
 
 
 誰もいない廊下の真ん中で、アルフレッドの体重にプルプル耐える光景は下手すると喝上げの現場に見えなくもなかったが、訴えも虚しくその手を退けてくれそうにもなかったためラウルが我慢するしか無かった。
 
 
「あの、さっきはありがとうございました」
「……は、それだけか?」
 
 
 一言お礼を言って満足そうに頷くラウルにそんだけの為に授業抜け出して追いかけるか?と呆れた目線を向けていたアルフレッドは不意に頭の上に置いていた手をギュッと両手で握られる。
 
 
「何でここまで追いかけてきたのか俺にもわからないんですが、なんか……追いかけたい懐かしい背中だった…から…?」
「……なんだそれ」
「ね…なんなんですかね…俺、先輩の背中になんの思い入れないですもん」
「その言い方もムカつくなぁおい」
「うぎやぁぁあああ――っ」
 
 
 イラッとした感情のままに、再びガシッと頭を鷲掴み容赦なく前後左右に振り回しながらふと心の奥底で気になっていた事をラウルに尋ねてみたくなった。


「なぁ、ラウルお前さ…ラポワントの家に拾われる前って――」

 
 そんな時だった。
 
 
「ラウル!」
 
「――っち、ご主人様来たぞ」
「へぁぁっ」
 
 
 振り回していた手がパッと離れるとそのままバランスを崩し倒れ込みそうになるラウルだったが脇の下から回ってきたアルフレッドの腕に抱えられ、ぶらーんとする視線の先、こちらに駆け寄ってくるリカルドと目が合った。
 
 
「……は、はあ、リカ様…?」
 
 
 クラクラする視界の中で見えたリカルドの表情は何故かとても険しく見えた。
 
 
 
 
 
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