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第二章【記憶】
2-8 あまたの視線(5)
しおりを挟む二人の無言の歩みはアール寮とセント寮の合流地点までノンストップだった。
十字路の合流ポイントを曲がり真っ直ぐ先の方に目指す校舎が見えてきた途端、どちらともなく詰めていた息を吐き出すように盛大にはぁとため息を漏らしていた。
「こ、こわかったです……」
「いやいやいや、俺はお前の態度の方が怖かったわ火に油ドバドバすんな」
ラウル以上にげっそりしているレオンハルトにきょとんとするラウルは何でですか?と口を開く。
「あの人…シエル先輩?は、俺に何もしないって言ってくれました。だからそれで十分です!さすがに今からお前をボコ殴りにしますって言われたら全力でひぇぇってなりますが、他の人が俺に何かしようとしてる事まであの人にどうにかしてくれ、とは思いません」
「ラウル…」
あまりにもごもっともなことを言うラウルの初めて見るしっかりとした一面に驚いたレオンハルトは、自分がラウルを見た目以上に幼くて頼りないやつだと決めつけていたことを心の中でごめん、と謝る代わりにちょうどいい高さにある頭をポンポン撫でた。
するともうだいぶ見慣れた、むふんと満足そうに撫でられる姿勢のポメラウ化するのはすぐだった。そんなラウルにやっぱりお前はこうだよな、と笑うレオンハルトは撫でていた手をそっとおろす。
「まぁでも極力一人にならないように気をつけろ、マジで何してくるかわからんから」
「ん~…レオくんにひっつき虫してるので多分大丈夫ですよ!俺たち一心同体です」
いぇいっ、と謎のノリでおろしたばかりの腕に絡んで来るラウルになんだそれ、と嫌そうに顔を歪め離れろっと邪険に扱われるが、それはレオンハルトなりの照れ隠しだとラウルにもわかり、にまぁと嫌な笑みを浮かべるとさらにじゃれついた。
「や~めろ、マジで、歩きづらい」
「むふふふレオくん照れてますね?」
「うっさい」
「むぐっ」
にまにまの両頬を容赦なく片手で潰され遠ざけられながらも、ラウルはずっと両手を伸ばし続けた。
出会ってまだ一日。
それでも生まれて初めてできたオトモダチがいるから、ラウルは不安や心配など一切なかった。
*****
「みなさんおはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
いよいよ始まる魔法学院での初めての授業。
昨日受けたオリエンテーションで使用した部屋よりも一回り小さな講義室でレオンハルトの隣にこじんまりと座りながら落ち着きなくキョロキョロ辺りを見回すラウルはすかさずレオンハルトから小声で落ち着けと注意を受け、すんませんと姿勢を正すと視線を教壇へ固定させた。
すると全て見てますよ、とでも言いたげな笑顔で教壇から見ている教師のシリルと目が合い慌ててぺこりと頭を下げさらに縮こまって息を潜めるラウルだった。
「昨日伝えた通り、今日からは今この教室にいる寮のメンバーが4年間クラスの仲間です。みなさん切磋琢磨してよき魔法士を目指してくださいね」
いまだレオンハルト以外の同級生とは会話をしたことが無かったが、チラホラ見覚えのある顔を認識することが出来た。
少しずつ、あせらずゆっくり、と今はまだ自分のペースでのちのちお話できたらなくらいのラウルに反して、クラスメイトは入学早々注目を集めまくるラウルとレオンハルトに興味津々だった。
「それでは今日はみなさんの魔力測定を行います。ここにいるみなさんは少なからず魔力をお持ちです。ですがまだ実際に魔法を使った事は無いはず。みなさんの魔力がどれほどの量なのか、その純度はどうなのか、自分の力量を知ることは大切な事ですからね、自分の力と向き合う貴重な時間となりますので心して行ってください」
シリルの言葉を黙って聞いていた生徒の目は揃ってみな期待で輝いていた。それはラウルも同じ。恐らく自分はしょぼい力しか無いのだろう。だけど、いつかリカルドの役に立てる日がくる、そう信じてラウルは頑張ろうと決めていた。
「楽しそうだなラウル」
「はい!リカ様の右腕…は無理でも、使い捨ての盾くらいのお役に立てるよう頑張ります」
「……使い捨てられない強い剣になれるよう頑張ろうな」
おぉっ剣!と、今まで考えもしなかったカッコイイ夢を新たに与えられ、さらに目を輝かせるラウルだった。
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