26 / 45
第二章【記憶】
2-5 あまたの視線(2)
しおりを挟むなにも信じたくない現実逃避に走ったラウルはもはや体を起こす気力もわかず、レオンハルトに全体重をあずけぐったりもたれかかっていた。実際目を開けていると視界がぐるぐる回転し気持ち悪さもやってくる。リカルドに関することで何か不安になるとすぐ精神に影響が出る。ラウルの変わらない習性だった。
「おいラウル?マジで顔真っ青…大丈夫か?」
「……うぅ、リカ様」
「リカルド先輩呼べばマシになる?ってもなー…あの中に行くのは…あ」
「ラウル」
うるさい喧騒の中、突如透き通ったクリアな声がラウルの耳に届いた。瞬間、ぐったり閉じていた目がかっと見開き、その声の方へ反射神経以上のスピードで反応を示す。レオンハルトも逐一ビックリしなくなるほど徐々にラウルの反応に慣れつつあった。
歪む視界の中、心配そうな表情を浮かべたリカルドが少しずつ近付いてくるその光景がラウルには後光を放ちながらやってくる天使様に見えていた。
「天使様…?わぁ、また会えた……」
「ラウ、僕だから。天使じゃないよ」
ヨロヨロと伸びるラウルの両手を苦笑しながら受け止めたリカルドは、ほんの一瞬、他の男の腕に抱かれる姿に目を細め、まるで我が手に取り戻すかのようにそのまま慣れた手つきで軽々と抱き起こす。空気が読めるレオンハルトはすぐさま空気となると離れていくラウルを黙って見送った。
ふわりと感じる浮遊感と嗅ぎなれた香りに「ふぇ…」と小さく反応したラウルはゆっくり顔を上げるとそこで初めて至近距離で視界いっぱいにうつるリカルドを認識し目を限界まで見開いていた。
「リカ…様……?」
「うん、僕」
「っ!」
本物のリカルドだとわかった瞬間、抱き上げてくれているリカルドの体に腕も脚もぎゅっと巻き付けコアラのように力いっぱい抱きついた。そんな全力のラウルの抱擁に笑いつつおしりの下にまわした手でしっかり支えてくれる。昨日の歓迎会途中退座に引き続き、周りの視線などお構い無しの堂々とした二人に注目は集まりっぱなしだった。
「よしよし――何か嫌なことがあった?」
なんでも話して、と抱き上げた状態で目線が上なラウルを下から見上げる。
もごもごと言いにくそうに口ごもるラウルに、ん?と微笑み促せば、やっとその重い口が開かれた。
「リカ様っあの、本当ですか…?野蛮な人とお付き合い…」
「してないから」
周囲に聞かせる意味も含め、きっぱりはっきりと否定する。
もう一度ラウルに言い聞かせるように「付き合ってないよ僕にはラウルだけ」と優しく伝えれば、ざわりとざわめく周囲に反し、リカルドの言葉が絶対のラウルはリカルドが違うというのなら違うのだと一気に納得安心し、安堵の表情を浮かべた。
満面の笑みでむふんと笑うと再び顔をリカルドの首筋に埋め、ぎゅっと抱きつくラウルを満足そうに抱き抱えるリカルド――そんな光景を一歩離れて眺めていたアルフレッドは何故だかわからない懐かしさを感じていた。
小さな体で思いっきり抱きつきしがみつかれるその感触は、幼少期のアルフレッドが好きだった懐かしい記憶。
気付けば考えるより先に口が声を発していた。
「なぁチビ」
「……チビって呼ばないでください」
リカルドとの幸せタイムに突然口を挟んでくる不届き者を、リカルドの肩越しに顔半分のみ出してじとっと視線を送るラウル。
「っち……ラウル」
「ひょあっ!?リカ様舌打ちされました」
「物騒だね」
半分のみ出ていた顔までもぴゃっと全て引っ込ませ、リカルドに泣きつく。見かねたリカルドは自分がアルフレッドと対面するよう、体の向きを変え「なに」と目で訴える。
「ちょっと話すだけでなんでお前を通さなきゃダメなんだよめんどくせぇ…過保護すぎだろ」
「どうせろくなこと言わないでしょ早く言いな」
「はいはいわかりましたよ、っち……めんどくせぇな」
何度も舌打ちを漏らすアルフレッドの不機嫌そうな態度にビビるラウルは一体何を言われるのか、リカルドの陰に隠れそっと様子を伺って待った。周りの観衆もアルフレッドが何を言い出すのか興味津々だった。
そして―――
「……ちょっとそいつこっち寄越せ」
「……は?」
これには全員が頭の上にはてなを浮かべた。
一体この俺様は何を言い出すのだろうか。理解の追いつかない反応を感じ取ったのか、「あークソっ」と髪をかき乱したアルフレッドは開き直ったのか今度は堂々とわかりやすくもう一度その言葉を繰り返した。
「だから、俺にもラウル抱かせろ」
「は???」
ざわっとざわめく食堂内に「絶対嫌です!!!」というラウルの泣き声が響き渡った。
26
お気に入りに追加
942
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア



弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる