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第二章【記憶】

2-4 あまたの視線(1)

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 その騒ぎは一瞬で食堂内に広まった。
 
 
「リカルド様の部屋から上半身裸のアルフレッド様が出てきたんだって!?」
「やっぱおふたりはお付き合いされているんだ!」
「昨晩もずっと一緒だったということ!?」
 
 
 嫌でも耳に入る声量の会話は当然食堂の片隅で向かい合って座り朝食を食べていたラウルとレオンハルトの耳にも入ってきていた。
 
 
 カラーン――…
 
 
「……ラウル」
「な、何ですかこの不愉快な話たちは…あの野蛮な人とリカ様が…?あああありえません!!昨晩リカ様と一緒にいたのはおれ―――ふがふが」
「ラウ、ラウル落ち着け声のボリューム落とせ」
 
 
 震えるあまりラウルの手からスプーンが零れ落ち、かっと目を見開くと怒りのあまり大声で主張をしようとする。そんなラウルの口を向かいの席から手を伸ばし慌てて塞いだレオンハルトはそのまま立ち上がるとわざわざ席を周り隣に腰掛け暴走寸前のわんこをなだめた。というよりほぼ羽交い締めだった。
 
 腕の中にすっぽり収まるラウルに改めて、おぉちっさ…と内心驚いていると、突然感じる鋭い痛み。「いっ」と声を上げ慌てて手を離せば口を塞いでいた手をガジガジかじられていた。
 
 
「失礼なことを考えている気配を察知しました…」
「……すみませんでした」
 
 
 ぷっくり膨れ怒るラウルを今度は違う意味でなだめていると突如、背を向けだいぶ距離の離れた入口付近からわっと歓声が上がる。
 あまりにも大きな音にビクッと肩が揺れ、その騒ぎの方へ目を向けても人集りが多すぎて何も見えない。が、何が起きているのかは人々の会話から察することができた。
 
 
「アルフレッド様とリカルド様だ。朝を一緒に行動するなんて珍しい」
「わっ、よろけるリカルド様を支えるアルフレッド様……絵になりすぎ」
「間違いなく付き合ってる」
 
 
 そんな不穏な会話しか聞こえてこない中、恐る恐るラウルを伺い見るとショックのあまり白目をむき魂を手放す寸前だった。
 
 
「おいぃ!?ラウルしっかりしろ!?」
「これは絶対悪い夢です…目を覚ませばリカ様の腕の中…さっさと目を覚まさなくてはいけません…」
 
 
 椅子に座ったままフラフラ倒れてくるラウルをしっかり抱きとめ、ぶつぶつ呟かれる現実逃避の言葉にダメだこりゃと頭を抱えるレオンハルト。ふと見回すとそんな光景が食堂内の至る所で広がっていた。主に犬猿の仲であるアルフレッド親衛隊とリカルド親衛隊、その両者が目の前で起こっている受け入れ難いリアルタイムに嘆いているのだった。
 
 
「……なんつー地獄絵図」
 

 ポツリと漏れたレオンハルトの呟きは誰に拾われることも無く喧騒の中に揉まれていった。

 
 
 

 そんな普段と違う食堂内の反応に、リカルドもまた戸惑いを抱えているうちの一人だった。
 朝に引き続き、わざとタイミングを合わせやって来たアルフレッドを不審に思いながら食堂に入った途端、こんな騒ぎになる意味がわからなかった。
 キンキン聞こえてくる言葉たちに耳をすませば「付き合ってる」「お似合い」など、自分たちに向けられるには理解し難い言葉ばかりが入ってくる。どういう事なのか、見知った顔を探そうと辺りを見回した瞬間、不意にアルフレッドに無理させられた名残がズキンと襲い情けない事に僅かによろけてしまった。
 
 
「大丈夫か?」
「……ねぇ、なんなのこれ」
「あぁ、これなー…」
 
 
 よろけてくるリカルドを片手で受け止めたアルフレッドがわざとらしくリカルドの腰に手を回せばさらにきゃぁっと沸く観衆達。げんなりするリカルドに面白おかしく笑いながら、さらっと今朝の遭遇を告白した。
 
 
「見られたわ、さっきお前の部屋から出てくところ。人間拡声器に」
「……は?」
「んで、完全に誤解された。俺とお前、付き合ってるらしいぞ」
「は???」
 
 
 普段なかなか見れないリカルドの歪んだ表情に満足そうにケラケラ笑うアルフレッドはふとさらに面白そうなものを見つけてしまった。
 
 
「お、あそこ」
「?」
 
 
 アルフレッドが指さす先、つられて目を向ければレオンハルトに支えられたラウルが気分悪そうに顔を青ざめさせていた。
 
 
「ラウ?」
 
 
 考えるより先に体が動いていた。
 アルフレッドの手を振り払い、ラウルのいるテーブルへ一直線に向かっていく。面白そうに笑みを浮かべたアルフレッドが飄々とその後を追いかけた。
 
 


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