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第一章【新生活】
1-18 ラウルの秘密(1)
しおりを挟むリカルドに支えられながら歩いた寮の廊下は、先程までいた食堂とは打って変わってしんと静まり返っていた。だけど不思議と不安ではなかった。リカルドがそばに居るから。気付けば震えも止まっていた。
「僕の部屋は5階の角部屋だよ。向かいはアルフレッドの部屋だからくれぐれも近付かないようにね」
「あ、あの、リカ様…夜眠れない時とか、リカ様のお部屋に行っても…」
「ラウ、就寝時間後は部屋から出てはいけない決まりがあるよね?」
「あ……」
「だから、バレないようこっそりおいで」
「っ!ありがとうございます」
ぱぁっと喜ぶラウルの頭を優しく撫で、さぁついたよ、と扉の前で立ち止まる。
位置としてはラウルの部屋と同じ左奥の角部屋。ただ違っていたのはその広さだった。
開かれた扉の奥はラウルの部屋同様角部屋特有の窓が二面に存在し、一人分の家具がお洒落に配置され、空間がより広く見えるよううまく活用されていた。
そして、大きく違ったのは風呂とトイレが別だということ。
「わぁお風呂~俺の部屋ユニットバスで、ゆっくり浸かるのは難しそうだな…ってそこがちょっと残念に思ったんですよねぇ」
「ラウはお風呂大好きだもんね。…一緒に入る?」
「いいんですか!?」
即答するラウルにリカルドは気付かれないよう秘かに安堵の息をもらしていた。
まだリカルドもラポワント邸で共に暮らしていた頃、二人は寝る時はもちろん入浴時だってほぼ共に過ごしてきた。そのかけがえのない習慣が離れていた年月と共に風化してしまったのではないかと内心不安だったリカルドと、それはさすがに学院生活ではできないだろうと諦めていたラウル。お互い求める事は同じだった。
「ふふ、まだ一緒に入ってもらえて安心した」
「リカ様と一緒が嫌になる時なんて来ません」
「わからないよ?娘の父離れは突然って言うでしょ?」
「……俺、リカ様の娘じゃないです」
ぶぅと膨れるラウルの頬をごめんごめんと優しくなで、風呂のお湯を準備するため部屋の奥へと進んでいく。「適当に寛いでて」というリカルドの言葉に甘え、ベッドへ腰掛けるとそのままぼふんと後ろに倒れ込めば布団からはリカルドのいい香りが濃く感じれた。
どれだけの時間をそうしていたのか、うとうと閉じかけていた視界に突然にゅっとリカルドの綺麗な顔が入り込んできた。
「ラウ~?そのまま寝ちゃわないでね」
「リカ様の匂い…落ち着きます…」
「ふふ、今夜は一晩中抱いて寝てあげる」
「ヘブン!!!」
両手を広げてビタンっと飛び跳ねるラウルを優しく見守りながら「さぁお風呂行くよ」とラウルの手を握り引っ張り起こす。
洗面台付きの脱衣所まで手を繋いで行くと、もくもく湯気で曇るガラス張りの向こうに二人で入っても十分な大きさの猫足のバスタブがうっすらと見えた。ビタンっとガラスに張り付きそれを確認するとむふふっとにやけ、ふんふん鼻歌交じりに自らてきぱき服を脱いでいく。
そんなラウルを洗面台にもたれながら腕組みをして眺めるリカルドはいまだ一切脱ぐ気配がない。既に最後のパンツから片足を抜きぷりんっとしたお尻を向けるラウルにはぁ、とため息を漏らすのだった。
一糸まとわぬ裸体の後ろ姿。その右腰にあるラウル自身も知らない痣――。
「?リカ様も脱がないですか?」
「っ、うん、すぐ行くから先に入ってて」
きょとん、とするも「らじゃです!」と元気に返事をしルンルン浴室へ入っていくラウルを見届け、再びはぁとため息を漏らすリカルドだった。
「無防備に脱ぎすぎ……」
頭からシャワーを浴び浴槽へ入っていくラウルを横目に、やっとシャツのボタンへと手をかけた。
「お湯加減はどう?」
「丁度良きです!」
「よかった」
腰にタオルを巻いた状態で浴室へ入ってきた裸体のリカルドを遠慮のない目線で舐め回すラウルに苦笑しながらシャワーを浴び、入浴剤で白濁した浴槽へと足を入れる。
自然と隙間を空けるラウルの後ろに腰を下ろすと、すぐにリカルドの胸にぴっとり背中を預け、頭を仰向けて振り返ってくるラウルに「ん?」とにっこり笑顔を返した。
「リカ様とお風呂嬉しいです」
「ふふ、頼むから他の人の前でさっきみたいにすぐ脱がないでね?大浴場もダメ」
「わかってますよぉ~」
ふんふんご機嫌そうに返事をするラウルの肩にお湯をかける。
「本当に?レオンハルトくんの前でもダメだよ?」
「わかってます、俺の裸はリカ様以外には見せれません」
白濁で見えない自分の身体を見下ろしながらそう呟くラウルに、「そうだね」と静かな返事が浴室に響いた。
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