12 / 45
第一章【新生活】
1-12 寮(3)
しおりを挟むぼふんっとベッドに飛び込むラウルにすかさず「制服シワになるぞ」と注意が飛ぶ。
休む間もなくトランクの中から自分の荷物を取り出し片付けはじめるレオンハルトをベッドに寝転んだまま、ぼぉっと眺めるラウルの視線が気になったのか、「どした?」と作業の手を止めベッドに腰掛け聞いてくる。
「なんか…レオくんって物語の中でよく見るお母さんみたいですね…」
「なんでだよ!」
「よく見ててくれるし助けてくれるし手だって繋いでくれます。お母さんってこんな感じなのかなぁ…って思っちゃいました」
そう語るラウルの雰囲気が今までとは違いどこか寂しげで――これはふざけてるのとは別のやつだ、と察し、続けようとしたツッコをグッとのみこんだ。その代わり、ぽんっと疑問を口にしてしまった。
「……ラウルって、ラポワントの」
「拾われっ子です」
「……そうか」
本当は「次男なんだよな」と続けたかった続きが出るより先にケロッとなんでもないようにラウルが言った言葉に、生まれてこのかた両親の愛情を受けて育ってきたレオンハルトからしたらガツンっと頭を殴られたような衝撃だった。
社交界に一度も姿を現したことのない、噂にだけ囁かれていたラポワント家に存在するらしい二人目の子供。幼少期からなにかと有名だったリカルドとは正反対に年齢性別全てが謎に包まれ、その秘密は徹底して守られてきた。
そんな長年誰もが疑問に思っていた存在が今、目の前でだらしなくベッドでうとうとしている。
本人の様子からは全く想像もできない、そこまでして隠す何かがこの目の前の小さな存在にあるのだろうか―――なんて、レオンハルトには全く関係の無い事だった。
出会ってまだ1日も経っていないこのポメラニアンみたいな同級生をリカルドに頼まれた云々関係なしにレオンハルトの中で既にほっとけない存在として受け入れていたから。
気付けばそっとふわふわの頭に手を伸ばしていた。
「なんでも言えよ…助けてやるから」
「レオくん……お母さんって呼んでもいいですか」
「それはやめろ」
あははっと無邪気に笑うラウルの頭をくしゃくしゃに撫で回しながらつられて笑う苦笑の下で、この笑顔がずっと続くようできる限り味方でいよう、そう密かに誓っていた。
*****
正装と制服から解放されたラクな私服に着替え、言われていた時間まで荷物を片付けつつ自由に過ごし、残り15分というところで二人揃って部屋を出る。
廊下に出た途端、偶然お向かいも扉が開き新入生らしき二人が出てきた。目が合うより先に人見知りを発揮するラウルは咄嗟にレオンハルトの背中に体のほとんどを隠し、チラッと見える程度しか出ていない。
「ちょ、おいラウル」
「大丈夫、大丈夫ですレオくん挨拶してください」
「なぁにが大丈夫なんだ出てこい」
「ぎゃ、や、やめてぇ引っ張り出さないでぇ」
背中に引っ付くラウルを引っ張り出すというなんとも言えない格闘を繰り広げる二人に、お向さんの二人は若干引き気味に距離を取りながら当たり障りのない挨拶を落としていく。
「あ、えと、初めまして…」
「歓迎会楽しみましょうね…お先でぇす」
そそくさと去っていく二人の背中を見送ったあと、自分の背中にくっつくラウルを見下ろしたレオンハルトは先が思いやられ頭を抱えるしか無かった。
「ラウル~~」
「うぅ…自分でもよくわからないんですけど、何故か体が勝手に逃げちゃうんですもん…」
「はぁ……慣れだ慣れ!とにかく会った人に挨拶!頑張れ!」
「うぅっ、頑張ります…」
自信なさげに肩を落とすラウルの肩をガバッと抱き込み「次会った人には絶対な」と鼓舞しながら歓迎会会場へ向かうべく足を進めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
892
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる