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第一章【新生活】
1-10 寮(1)
しおりを挟む門をくぐると左右に草木が植えられた簡易的な庭が存在し、玄関までの通り道はランダムなサイズの石が乱張りに敷かれお洒落に行先を誘導していた。その先にある5階建ての大きな洋館がこれから4年間を過ごす【アール寮】だった。
「ちなみに、もう1つの寮、セント寮は教室棟を挟んだ反対側のほぼ同じ位置にあるぞ。寮同士変ないざこざが起きないよう、離れた場所に作ったそうだ」
「ほぇ~…」
建物を見上げる事に夢中であきらかにちゃんと聞いていないのが見て丸わかりなラウルのリアクションに苦笑を漏らしつつ、「行くぞ」とその背中を押し、先を促した。
すぐにたどり着く両開きの玄関扉はアンティーク調のダークウッドの板にお洒落なステンドグラスがはめ込まれ、ドアアームもお洒落な黒色と、この玄関を見ただけで中もお洒落な洋館なんだろうと安易に想像することが出来た。
レオンハルトが左側のドアアームに手を伸ばすと自然とラウルは一歩後ろに下がる。そのままグッと力を込め引くと一瞬重そうな顔を見せギィィっと鉄の錆びた音が鳴り響いた。
扉が閉まらないよう押さえるレオンハルトの脇の下辺りからひょっこり中を覗くラウルは玄関ホールに多くの生徒がいる中、一番に見えた後ろ姿にパッと顔を輝かせ駆け出したい衝動を必死に抑えていた。自分の脇の下から顔を出すラウルの視線を追い、すぐにあー…と納得するとその頭にどっしりひじを置き体重をかけ、ぐえっと潰れたカエルのような声を出すラウルを楽しそうに見下ろす。
「レ、レオくん…重いです」
「ホントお前はリカルド先輩を見つける天才だな」
「そこだけは自信ありますよ!」
「はいはいご主人様あいたみたいだぞ、行ってこい」
ゴーを出したと同時に走り出すこの光景はついさっきも見た気がする…と軽いデジャブに襲われるレオンハルトだった。
リカルドの邪魔をしてはいけない。その思いで我慢していたが、やっぱりその姿を目にしたら会って話したい。その想いがラウルの原動力となり、リカルドが振り向くより先にその背中に抱きついていた。
「リカ様っ」
「わぁ、ラウ――びっくりした、いらっしゃいラウル。寮も一緒だったね」
「はい!一緒嬉しいです!天国です!」
腰に抱きつくラウルを背中越しに振り返りその頭をよしよしと撫でる。そんな光景を見ていた新入生や在校生からザワっと声が上がるのを完全ふたりの世界にいるラウルとリカルドは気にもしない。
だから、この人の存在も声がかかるまで全く視界に入っていなかった。
「おーおー、ポメがまたデレッデレの顔でしっぽ振ってら。おいおチビ、しっぽ振る相手間違えてるぞ?お前のご主人様は俺だろ?」
声だけでその主が誰かわかってしまい、ラウルはげんなりとしながらリカルドの背中に顔を埋め込み聞こえないふりをする。だが、横柄な態度で椅子に腰掛けふんぞり返っているアルフレッドは見逃してくれるはずもなかった。
「聞けおチビ。このアール寮で暮らしていく絶対ルール、寮長様の言う事は絶対。だ」
「無視していいよラウル。寮長も名ばかりでアルフレッドは何も仕事しない問題児だから」
「その代わりにリカ様にしわ寄せがきてしまっているんですね…早く寮長解任した方がいいと思います俺署名集めします」
「ありがとうラウル。でも僕は大丈夫だから…応援してね」
隙あらばすぐにふたりの世界に入る二人にさすがのアルフレッドも堪忍袋の緒がキレキレだった。座っていた椅子から立ち上がりズンズン迫ってくる。迫力のある顔が一直線に向かってくる光景に、ひえぇぇっと全身の毛を逆立てる勢いでビビり、リカルドの後ろに隠れるラウルを見かねたレオンハルトがその間に割り込んできてくれた。
「兄さん、新入生達ビビってるから。おっかない顔しまって。それに仕事してないのは間違ってないでしょ」
「レオ…いっちょまえに生意気はくようになったな…」
「はいはい、後がつっかえてるから、早く俺たちの部屋教えてください寮長様」
レオンハルトからすれば、感情が表に出やすいアルフレッドの方がリカルドの何百倍も怖くない。というより、これからの学園生活ラウルと行動を共にする限り、リカルドを敵に回したくない気持ちが大きいのが正直なところだった。
3対1の構図にちっと舌打ちを残し「あーあーやめだやめ」と踵を返すアルフレッドはやはり仕事をせず元いた椅子に戻って行った。
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