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第一章【新生活】
1-6 入学式(6)
しおりを挟む何かしらのきっかけがない限りいつまでも続くと思われた無言の重圧。
直接リカルドの顔を見て対峙する度胸はレオンハルトにはなく、斜め下の地面を見て耐えていると、それが突然ピタッと消えた。レオンハルトにとっては喜ばしい限りだが突然なぜ…、と視線をあげた途端そこでもまたヒッと息を呑む光景を目撃してしまった。
リカルドの視線はアルフレッドとラウルの方へ向けられ、その表情は今まで見てきた中で一番と言っても過言ではない程、能面のように無だった。
そんな視線の先で、二人はなにやら内緒話をするかのようにアルフレッドに肩を抱き込まれたラウル。傍から見ると無駄に色気増し増しの角度で耳元に何かを囁くアルフレッドと、ほえぇぇっと驚き目を丸くして話に釘付けになっているラウルの様子は先程までの警戒心はすっかり頭から抜け落ちているようだった。
そんな二人に対し、アルフレッドには無言の殺意を、ラウルには頭を抱えたくなるリカルドの気持ちもわからんでもないレオンハルトだった。
「……レオンハルトくん、あの子ちょっと温室で大事に育てすぎて警戒心おバカだから…よろしくね…下手したらお菓子で知らない人にも着いて行ってしまいかねない」
「……はい。見守らせていただきます」
出会ってまだ一時間も経っていない関係性だというのに、リカルドの言いたい事がよくわかる。
頼むよラウル―――!そう心の中で叫ぶレオンハルトであった。
その頃、自分の事で二人が結託しているなんて微塵にも思っていないラウルは、アルフレッドから聞かされる自分の知らないリカルドの話に夢中になっていた。
「――って感じで、あいつ入学してから毎年学院祭でミスセントアール優勝してんだぜミス部門」
「さすがリカルド様…!ミスセントアールが何かちょっとよく分からないんですけど、とにかく一番って事ですよね!リカ様はいつも何でも一番です!」
「はは、絶対信仰こえぇ…その時の写真見たいか?」
「あるんですか!?ぜひ見たいです!!」
「よし、だったら一回まわってワンと言え――」
「わんっ」
やって見せたぞさぁ見せろと鼻息荒くむふんと訴えるラウルに辺りはしんと静まり返る。
アルフレッドもまた静かに目を見張っていた。
「おいリカルド……」
「ダメだよアルフレッド。ダメだ」
ラウルを凝視したまま、リカルドの名前を呼ぶ。それだけで言いたいことを察したリカルドは速攻拒否の言葉を返すが、どこかさっきまでの余裕は消えていた。すぐさま手元に戻さなければなにか取り返しのつかないことが起こりそうで――
「ラウこっちにおいで」
「え、でも俺、今アル様と約束…」
「アル様ってなに」
「ひぇ…」
リカ様怒ってる…?なんで…とわけもわからず、とにかく嫌われたくない一心で涙目になりながらリカルドの元へ駆け寄ろうとしたラウルの身体は、思うように動かなかった。
「ひょあっ!?え、なに…」
「っ、アルフレッド!」
「おい、おチビ。お前、特別に俺の犬にしてやってもいいぞ」
小さいラウルの身体はアルフレッドの腕にすっぽりおさまり、後ろからしっかり抱きしめられていた。「おぉ、サイズ感ピッタリだな」と感心するアルフレッドの声を頭の隅で聞きながら、プルプル震えるラウルは……ずっと周りで見ていたざわめく観衆、今すぐにでも攻撃魔法を繰り広げそうな勢いのリカルド、そんなリカルドを必死に抑えるレオンハルト、それら全員が予想もしない今世紀最大の力を振り絞りアルフレッドの腕の中から脱出した。
「俺はリカ様の犬なので結構です!!!」
「「「………」」」
「リカ様ぁぁ~…」
「ラウル、よしよし。戻ってきていい子だね」
「リカ様に捨てられたら俺、生きて行けませんんん…嫌わないでぇ~」
本気でひんひん涙を流しながらリカルドの胸に飛び込むラウルを全員が呆気に取られて見つめる中、リカルド一人だけが満足そうに、そして愛おしそうに、ラウルを抱きとめていた。
いままで一切表舞台に出てこなかったラポワント家の秘蔵っ子。
その相互間の信仰ぶりと溺愛過保護ぶりを全員が目の当たりにした瞬間だった。
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