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第一章【新生活】
1-5 入学式(5)
しおりを挟むいつまでも肩に置かれたアルフレッドの肘を冷めた表情で容赦なく払い落としたかと思えば、180度真逆の優しい微笑みを携えラウルに話しかける。その見事な切り替えにアルフレッドはうぇと舌を出し二重人格かよ、とゲッソリしていた。
「ラウ、その子――レオンハルトくんと知り合いになったの?」
そんなリカルドの変化に全く気付かないラウルは優しい声に嬉しそうに振り向くと意気揚々とレオンハルトを紹介する。
「はい!入学式で席が隣同士で、俺の初めてのオトモダチです!……でも、リカ様、レオくんご存知ですか?」
こてんと頭を傾けたラウルはリカルドとレオンハルト交互に視線を向ける。名前を知っていることから初めましてでは無いことは察することができた。
「うん、そうだね、僕の犬の――」
「犬じゃねぇ」
「あはは、冗談だって。レオンハルトくんはね、僕のオトモダチのこの人、アルフレッド・プルーストの従兄弟なんだ。レオンハルトくんもプルーストでしょ?そして家族ぐるみで付き合いがあるから僕ら三人昔からの顔馴染みなんだよ」
「ほぇ……」
「お久しぶりですリカルド先輩。アルフレッド兄さんも、久しぶり」
初めてできたオトモダチをリカルドに紹介したかったラウルは、蓋を開ければ自分だけが新参者だと知り、少し感じた疎外感になぜだかわからないが無性に悲しくなっていると当然頭にドスンっとありえない重みが加わる。全く状況が理解できず頭に沢山のハテナを浮かべながら強制的に地面を見て目を丸くしていると、すぐ真上から聞こえる横柄な声に犯人が誰か一瞬で理解した。
「アルフレッド・プルーストだ。アル様って呼んでいいぞ、おチビ」
「兄さん……ラウルめり込んでる…」
容赦なくかけられる重みにプルプル震えていると横から伸びてきたリカルドの腕に助け出され、すぐさま猛抗議を送っていた。
「リ、リカ様……!なんでこんな人と仲良くされているんですか!?失礼にも程があります!!」
「よしよし酷い目にあったね…僕もこんな野蛮人とは関わりたくないけどね、家的に…仕方ないかなぁ…」
「仕方ないよなぁ実質俺の方が上だ」
「!!!」
貴族社会に疎いラウルはプルーストという家名を聞いたことがなかった。信じられない目でリカルドを見上げれば否定されないことからアルフレッドが言っていることは事実なのだと知る。
「リカルドの犬ってことは俺の犬ってことだよな、せいぜいしっぽ振って点数稼ぎしろよおチビ」
ポンポンと音にしたらかわいい表現になったが、実際はその何十倍の力で頭をめり込まされ再び上げることのできない顔の代わりに目線だけで必死にアルフレッドを睨むラウルの図はまさにポメラニアンがキャンキャン吠えてる幻覚を多くの観衆が目撃していた。
そんな二人とは別に、ここもまた異様な雰囲気で向かい合っているリカルドとレオンハルト。正確に言えばレオンハルトがリカルドに圧をかけられていた。
「あ……えと…」
その圧に耐えきれなくなり先に口を開いたのはレオンハルトだった。
「俺に何か御用でしょうか…」と、たじたじになりながら聞く姿勢は昔から。
例え背格好が大きくなりイケメンの部類に分類されるなりに成長しようが、リカルドへの態度に変化はない。幼少の頃から社交界で顔を合わす度、レオンハルトは本能的にリカルドを恐れていた。
まず従兄弟であるアルフレッドにはあの性格そのままに散々振り回され、そこにある時から加わったリカルドは笑顔でえぐいくらいの無理難題を言ってくる。大人達は彼を天使様と崇め称えるが幼いレオンハルトには悪魔としか思えなかった。
二年前、彼らが魔法学院に入学し、社交界に顔を出さなくなったことでリカルドとは本当に久しぶりに顔を合わせたが……やはり何も変わっていなかった。多少は成長した自分ももしかしたら対等に渡り合えるかもしれないなんて思った幻想は早くも打ち砕かれたのだった。
「レオンハルトくんは、ラウルのいいオトモダチでいてくれるのかな?」
「あっはい、それはもちろん…です」
「うん、キミはアルフレッドとは違って素直だから安心できるね。頼りにしてるよラウをよろしくね」
にっこり笑った笑顔の裏に気付かないほどレオンハルトは無知ではなかった。肝に銘じます、と深く頷き内心ラウルに何かあったら俺どうなってしまうんだ…と怯え、早くこの場から去りたいと強く願うレオンハルトだった。
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