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3【招待という名の呼び出し】

3-22お姫様の謝罪(4)

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「どうして…キミがここに?」
 
 
 目を見開き、呆然と呟く僕に安定の微笑みを向けてくれる楓真くんは正真正銘僕が知っている楓真くんで間違いなかった。彼が一歩また一歩こちらへ近付くにつれ漂ってくるその人特有の香りが僕が唯一感じることの出来るフェロモンの香りだと証明していたから。
 
 
 トクトクと心臓が小さく脈を打つ。
 
 僕の視線は楓真くんに固定されてしまったかのように彼から目が離せない。
 そして同じように、まるで彼の視界には僕しか写っていないとでも言うかのように、しっかりと目が合ったままこちらへ向かって進む様子はまさに猪突猛進。楓真くんから見て手前に立つ美樹彦さんを未練なく素通りし、一直線にやって来ていた。
 
 気付けば心臓の鼓動は痛いくらい高鳴っている。
 
 
 あっという間に、手を伸ばせば触れ合えるくらいすぐ目の前の距離までやってきた楓真くんはゆっくりとその歩みを停めた。
 言葉を発せずただ黙って楓真くんを見あげる僕に、もう一度ふわりと微笑むと何を言うでもなくそっと右手を取られ指同士が緩く絡まり合う。
 それだけの接触にビクッと大袈裟に反応してしまい咄嗟に視線を落とせば、頭上から小さくクスッと笑われた気配を感じるが今更視線を戻して楓真くんを直視できない。落とした視界の中で楓真くんの指が僕の指を弄ぶ光景だけが広がり、それを見つめているだけでもドキドキが募っていく。
 
 そんな僕にお構い無しに平然と話しかけてくる。
 
  
「安心してください、会議はちゃんと終わらせてからつかささんを迎えに来ました」
「そんな、すぐ来れる距離じゃなかったはずだよ…」
「うん、だから会議も巻こうと思ってたんですけど、そもそも今日の一柳とのアポイント自体が宗介さんに仕組まれたダミーでした。全然中身がない」
 
 
 肩を竦めながら、けっと不満そうに言う楓真くんは「ところで」と突如話の流れを変える。
 
 
「ねぇつかささん」
「ん?」
「もう一度言ってください」
「……何を?」
 
 
 いまだ弄ばれている指がくすぐったくて楓真くんの話に集中できない。――だから、不意打ちだった。
 
 
「俺は誰のものなのか、もう一度つかささんの口から聞きたい」
「っ――!」
 
 
 勢いよく顔を上げるとニヤッとした表情の楓真くんと目が合い息を呑む。
 絡む指を持ち上げられ楓真くんの頬が寄せられたかと思えば、スリ、と頬ずりと共に向けられる上目遣いが「ねぇつかささん」と僕を呼ぶ。
 
 
「俺は、誰のもの?」
「……っ、」
 
 
 本来なら二度目なんて恥ずかしいかつ本人を目の前にしてなんて絶対に言えるはずがない。――なのに、まるで脳の司令塔を乗っ取られ操られているみたいに気付けば口が勝手にゆっくりと開いていく。
 
 
「ふ…ま、くんは…」
「うん」
「……ぼ、く…の」
 
 
「正解―――」
 
 
 ゾクッとするほど妖艶な笑みを浮かべ満足そうに微笑む楓真くんにチュッと指に口付けられた瞬間、背筋に電流のようなものが走り小さく「ぁっ」と声を漏らす。
 一気に足腰の力が抜け情けなく倒れ込んでしまう既のところで力強い楓真くんに抱き寄せられなんとか難を逃れたが、今度は触れられた腰から伝わる楓真くんの体温に反応し体が小刻みに跳ねてしまうのが止まらない。
 
 
「ぁ……んぅっなに、これ…ど、して…っふ」
「っ、早く帰りましょう」
 
 
 一体自分がいまどんな表情を晒しているか全くわからないが、次第に息も上がりあつい吐息を吐きながら腕の中から見上げた楓真くんと目が合うと切羽詰まったような顔でさらに強く僕を抱き込み、忙しなく出口へと向かっていく。
 安心する体温とフェロモンに包まれる力強い腕の中で身をゆだね、熱くなっていく体の熱を逃すのに集中した。
 
 
 
 
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