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3【招待という名の呼び出し】

3-21お姫様の謝罪(3)

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 永遠と同じ景色を見ながら歩き続けたあの時間が嘘のように、美樹彦さんの後ろを着いて数分もしないうちに見える景色に新鮮味が帯びてきた。
 特に変わった道を行ったわけでもないのに不思議で仕方ない。
 
 それがつい言葉として外に出てしまっていた。
 
 
「――すごい、本当に迷路みたい…」
「うち金持ちだから。防犯も兼ねてわざと迷いやすい造りになってる」
 
 
 ボソリと呟いた独り言に素っ気ないながら自慢気に返ってくる答え。これではっきりわかった事は、一柳や美樹彦さんを褒める関連の言葉にはたとえ僕が言ったとしても素直に反応してくれるらしい。
 それに気が付くとついクスッと笑いがもれてしまい、おっと、と口に手を当てたと同時に「なに…」とバツが悪そうに視線だけで振り返りじとっと睨まれ慌てて首を振る。
 
 
「いえ、教えてくださってありがとうございます」
 
 
 愛想笑いで無難に終わらせようと思っていた僕の考えとは裏腹に、ピタッと歩みを止めてしまった美樹彦さんに釣られて僕も水嶋さんも立ち止まる。
 何かまずいことでも言ってしまったか、と自分の直前の言動を反芻しながら、考え込むかのように無言で動かない美樹彦さんの様子を黙って見つめた。
 
 
 そして―――
 
 
「……あんたさ、なんで普通に話しかけてくんの」
「え――」
 
 
 突然の思いがけない質問に咄嗟に反応を示すことが出来ず、これが美樹彦さんの引き金だった。
 
 
「僕があんたに何したか忘れたの!?それともただのお人好し!?楓真とあんたの事認めたくないのにっ…認めたくないのにさ、あんたがそんなスタンスでいるから――……っ」
 
 
 叫ぶような美樹彦さんの悲痛な声が廊下に反響する。大きな目いっぱいに涙をため、今この瞬間にも溢れてしまいそう。
 
 
「……美樹彦さん」
「ぽっと出のくせに僕から楓真を奪ったあんたなんかとことん嫌って邪魔するって決めたんだからもっとイヤなとこ見せてよ嫌わせてよ!なんでそんないい人なの!?憎むに憎めなくなっちゃうじゃん…」
 
 
 最後の方はよく耳を済ませてやっと聞こえた消え入るような声。
 けれどそれを正確に聞き取り、驚きで目を見開くも、俯き細かく震えている美樹彦さんの姿に考えるより先に言葉を発していた。
 
 
「美樹彦さんの言う通り、長い時間楓真くんと共にすごしてきた美樹彦さんからしたら僕はぽっと出でしかありません。認めたくないものを無理に認める必要はないです」
「……」
 
 
 涙で濡れる顔を上げ、見つめてくる美樹彦さんの目をしっかり見返し続ける。
 
 
「美樹彦さんの楓真くんを想う気持ちに僕が口を出すことはできません。人を想う気持ちはその人の自由です。……だけど、それを行動に移されてしまうと番として、黙ってはいられません。楓真くんは僕の番で、僕と子供たちの大切な家族だから」
「……それって、楓真は自分のものって言ってる?」
「そうです」
「っ――」
 
 
 ここまでハッキリと誰かに楓真くんは自分のものだと言ったのは初めてかもしれない。
 それくらい美樹彦さんとは真剣に向き合いたかった。
 同じ人を好きなもの同士として、誤魔化さず、素直に自分の想い考えを。
 
 
 悔しそうに口をぎゅっと噛み締め、鋭く睨む美樹彦さんが再び口を開く。
 
 
「~~っ、楓真もそう思ってるわけ!?」
「そうだよ」
「え――」
 
 
 答えたのは、僕では無い。
 
 
 爽やかで落ち着いた聞き取りやすい男性の声。
 
 僕でも美樹彦さんでも水嶋さんでもない、新たな声の登場に全員の意識が一斉に廊下のその先へと集中した。
 
 
「そうだよ、美樹。俺の全てはつかささんのものだからつかささんの許可無く俺に接触しないで。つかささんが不安がる事はしたくない」
 
 
「ふう…ま…くん……?」
 
 
 いま自分が見ている光景が信じられない。
 
 なぜなら、会議で会社にいるはずの楓真くんがそこにいた。
 

 
 
 
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