【BL】欠陥Ωのオフィスラブストーリー

カニ蒲鉾

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3【招待という名の呼び出し】

3-14暴君(4)

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 *****
 
 
 
 あれから車に乗り続けること数十分あまり。
 
 もう間もなく到着すると言われた言葉は全然もう間もなくの距離ではないじゃないか…とさすがに思い始めた頃、いつの間にか見慣れたビル街から抜け、周りの景色はすっかり閑静な住宅街に様変わりしていた。
 
 
 綺麗に整備された道をさらに奥へ奥へと進んでいく。すると、突如突き当たり一面に広がる広大な敷地の邸宅が現れ、そこが全て一柳の屋敷なのだと気付くのにそう時間はかからなかった。
 ぐるっと囲むよう隔たれた塀に沿って走行するうちに、いま見てきた限り唯一の出入口かと思われる両開きの大きな門が正面に見えてきた。
 
 
 まるで城を守る要塞みたいだ――
 
 
 そんな感想が出てくるほど立派な門に感嘆していると、車は一度停止した。
 
 人間が押してもビクともしなさそうな厳重に閉ざされた門を前にして、降りて何かするのかと様子を伺っていると、どこからか監視しているのか、自動でオートロックが解除され、ギギギッと音を立てながら独りでに門が開かれていく。
 
 
「……」
 
 
 もし今ここに花野井くんがいたらきっと目を輝かせながら、すごいっアトラクションみたいっと終始リアクションを繰り広げているのだろうが、今この場にいるメンバーの中に誰一人そのようなリアクションを取る人はおらず、無言のまま扉が開かれるのを待つだけだった。
 
 
「お待たせしました、出発します」
 
 
 再び徐行で進み始める門の奥にも緑が整備された道がはるか先まで続き、屋敷にたどり着くにはまだかかるのかと驚きで声が出ない。
 楓珠さんが住まわれている御門の屋敷も立派な邸宅だが、ここはシンプルに規模が違った。
 
 
「――無駄にひれぇ庭…」
 
 
 足を組み、窓枠に肘をついて外を眺める水嶋さんからボソッと聞こえてきた嫌味混じりの呟きは聞こえないふりをするには車内は静かすぎた。
 

「もうすぐ着きますので」
「……どうだか、そう言ってとっくに30分以上乗り続けてんだよな」
「今度は本当にもうすぐです。ほら、見えて参りました」
 

 すっかり水嶋さんにたじたじの秘書は、見えてきた建物を指さし、ほっと息をなでおろしている。
 どんどん近づくにつれその大きさと全貌が明らかになってくる一柳の屋敷。
 
 あっという間に正面玄関らしき場所まで車を横付けし、今度こそ完全に停車した。
 
 
 乗り込んだ時同様、秘書が開けてくれる扉から一歩外へ出るとあまりにも久しぶりに感じる地面の感触につい大きく伸びをしたい気持ちをぐっと堪え水嶋さんが降りてくるのを待ちながらじっと目の前にそびえ立つ屋敷を見上げる。
 
 
「ご移動お疲れ様でした。代表がお待ちです、どうぞこちらへ」
「……」
 
 
 息付く暇もなく秘書の導きで開かれた玄関へと誘われる。
 チラッと水嶋さんへ目配せすれば、不安な表情がありありと出てしまっていたのだろう、ひとつため息を落とし自然と前を行ってくださる頼もしい背中に置いていかれないよう慌てて続く。
 
 
 車から降りてきていた運転手のお辞儀に見送られながら、一柳の屋敷へと足を踏み入れた―――
 
 
 
 
 
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