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3【招待という名の呼び出し】
3-13暴君(3)
しおりを挟む水嶋さんに続き隣へと乗り込めば、二人並んで座ってもゆとりのある車内は革張りの上品な高級感に溢れ、わぁと漏れ出そうになる感嘆を呑み込んでいると、またたく間に扉は閉められ、外からシャットアウトされてしまった。
秘書の方が助手席に乗り込み次第すぐさま静かに動き出す車。咄嗟に振り返る窓の外、心配げな表情を浮かべる楓真くんに見送られながら御門ホールディングスの敷地を出発した。
しばらく見慣れた大通りを走行する車。
エンジン音もそう響かない静かな車内は誰一人喋らず、終始無言が続いていた。
僅かに動いただけで鳴る衣擦れや自分の呼吸音が妙に目立ってしまいそうな居心地の悪さにできるだけ息を潜めながら今出来ることといえばただ窓の外を眺めるだけ。そうしながら考えるのは、別れ際の楓真くんとの会話だった。
『つかささん、お気を付けて。くれぐれも会社の不利益なんて事は一切考える必要は無いですからね、宗介さんに何を言われようがつかささん第一優先で物事を判断してください』
『……善処します』
『善処じゃだめ。絶対、約束』
『ふふ…はい、わかりました』
『ホントですか?信用ならない…』
『えーホントなのに』
『……はぁ、行かせたくない…このまま水嶋さんだけ行ってもらいましょ』
『何言ってるの、ダメだよ。代表を待たせてしまうから、そろそろ行くね』
『……お気を付けて』
『うん、行ってきます』
最後まで握った手を離そうとしない楓真くんに、大丈夫の気持ちを込め笑って笑顔で別れを告げたものの、正直不安しかない。
一体、一柳代表は僕にどんな用があるのか――
会って何を言われるのか全く検討もつかない緊張だけが続くこの移動時間。
せめて早く外の空気が吸いたい…そうぼんやり思った、その時――
「……なぁ、この道、会社方面じゃないよな?」
「え――」
いままで黙って窓の外へ視線を向けていた水嶋さんが不意に口を開いたかと思えば丁寧な口ぶりもなしにそんな事を言いだし、一瞬ギョッとするも、そこで初めて確かにと気付く。
いつの間にか、一柳ホールディングスの会社がある方向から綺麗に逸れていた。
「はい、代表からは一柳の屋敷へお連れするよう指示を受けています」
「……ッチ、そういうことは先に言えよ」
しれっと言い放つ秘書に驚愕し、水嶋さんのようにはけっして言えないが全くの同意見だ。
まさか会社ではなく完全プライベートな空間に呼ばれるとは思ってもおらず、いまこの場に水嶋さんがいてくださることだけが唯一の救いだった。
「もうまもなく到着しますので少々お待ちください」
そう言ったきり前を向いてしまう秘書に取り付く島もなく、だからといって今更降りる事も出来ず、無力にも乗り続けることしか出来なかった。
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