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3【招待という名の呼び出し】

3-12暴君(2)

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「お世話になっております御門社長」
 
 
 1階へ降り、受付で案内されるがまま会社の外へ向かえば、正面玄関前で停る一台の高級車。そこに後部座席の扉を開け恭しくお辞儀をする一人の男性が僕たちを待っていた。
 
 
「橘様をお迎えに上がりました、お帰りの際もこちらまでお送りするよう一柳から言付かっております。それではどうぞ橘様、お乗り下さい」
 
 
 パッと見の予想から楓真くんはもちろんの事、僕よりも年上に見え、水嶋さんよりは年下に見えるおそらく30後半の物腰のやわらかそうな男性はその場から動こうとしない僕に「さぁどうぞ」とほほ笑みを浮かべながら今一度乗車を促してくる。
 ここまでやって来たものの、はいありがとうございますと素直に乗るのも躊躇われ、どうしたものかと左側に立つ楓真くんへとチラッと視線を送ったまさにその時、反対側の視界の端で颯爽と動く人影をとらえていた。
 
 その人影を追ってさっと正面に視線を戻せば、涼しい顔をした水嶋さんが我が物顔で秘書の横を素通りし車へと乗り込もうとする場面だった。
 
 
「え……えっ、あ、えっ!?お待ちくださいっ」
 
 
 僕以外の同行者は予定外のことだったらしく、困惑の表情で若干声を裏返させながら水嶋さんを止めようとするが、我が道を行く水嶋さんを止めるにはこの秘書の方はどうにも押しが弱く、助けを求めるようにこちらへ視線を向けてくる。
 
 
「あ、あの…一柳からは橘様のみお連れするよう指示を受けているのですが――」
 
 
 秘書としてごもっともなことを言うこの男性に、ですよね…と内心冷汗をかく僕と違って、あとの二人は見事なまでに堂々たる姿勢を貫いた。
 
 まず先に口を開いたのは、楓真くんだった。
 
 
「弊社としましても大事な取引先である一柳代表の元へ一介の秘書である橘一人で伺って粗相をしてはいけませんので、橘の上司である水嶋を同行させます。本来でしたら私が同行したいのですが、お忙しい代表のスケジュールに合わせるにはこうせざるを得ないかと」
「と、社長が仰っておりますので、どうぞ私のことは空気とでもお思い下さい」
「ですが……」
 
 
 楓真くんと水嶋さんの無茶な言い分に簡単には折れないところはさすが一柳代表の秘書を務めるだけあると感心するが、その一歩上手うわてを行くのが長年楓珠さんの秘書を務める水嶋さんだった。
 
 
「あんたがこう悩んでる間にもお忙しいご主人様を待たせることになるが、問題ないか?」
「――っ、承知致しました、水嶋様の件は道中で一柳へ確認を取りますので一旦お二人お乗りいただいて向かいましょう」
「賢明な判断だ」
 
 
 ポンポンっと相手の肩を叩き車へ乗り込んでいく水嶋さんの後ろ姿を眺めながら、どれだけ経験を積もうがああはなれないな…と感心のため息が漏れ出てしまうのだった。
 
 

 
 
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