【BL】欠陥Ωのオフィスラブストーリー

カニ蒲鉾

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3【招待という名の呼び出し】

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 ここは綺麗さっぱり潔く「無理なものは無理」ときっぱり言われるのだろう、という僕と楓真くん二人ともが浮かべた予想はすぐさまいい意味で裏切られることとなる。
 
 
「……まぁ、今回は仕方ねぇからついてってやる」
「え……?」
「確かにお前ひとりで行かせたら狼の中にうさぎ一匹送り出すようで後味悪い」
 
 
 あえて視線をはずしぶっきらぼうにそう言ってみせる水嶋さんだが、気付けば僕も水嶋さんと共に仕事をしてきた年月はそう短くは無い程の時が経っている。
 だから感じる、この不器用な人なりの優しさに胸がじわっと熱くなった。
 
 
「うん、水嶋くんもこう言ってるから安心して何かあったら彼を盾に逃げなさい」
 
 
 楓珠さんの言葉にすぐさまおい、と肩を小突く二人のやり取りを目の前に「仲良いですよね」と肩を竦めながら失笑気味に笑う楓真くんをちらっと見ては、「そうだね」とつられて苦笑をもらし再び目の前に視線を戻す。
 
 
 今まで幾度となくあらゆる場面で楓珠さんや水嶋さんには助けていただいてきた。
 
 職場の上司として、人生の先輩として――この人達の助けがあったからこそ、今の自分の人生が上手くいっていると言っても過言ではない。
 
 
 飄々としているように見えて実はものすごく頼りになる目の前で並んで座る大人組二人を、自分もいつか我が子たちにとってこういう大人になりたい、と秘かにロールモデルとして尊敬しているのはきっと僕だけじゃないはず――そう思い「ね」、と目線だけで楓真くんに問いかければ、何故か予想に反し悔しそうな表情が返ってきた。
 
 
「?」
「……俺がつかささんを守りたかったです」
 
 
 きょとんとはてなマークを浮かべながら見つめる僕に対して、数秒黙り込んだ末にムスッと呟く楓真くんに、つい、ふはっと笑いがこぼれてしまった。
 経験も考え方も大人組には到底及ばないまだまだ若くてかわいい僕のつがい
 だけど間違いなく紳士でスマートな楓珠さんの血を引いている楓真くんの今後の成長に期待していると同時に楓真くんは楓真くんのままでいいんだよという意味を込めくしゃくしゃっと頭を撫で水嶋さんへ向き直る。
 
 
「水嶋さん、よろしくお願いします」
「……おう」
「俺からも。知弦さん、つかささんをお願いします」
「はいはいわかったわかったわかったから堅苦しいのはやめろ」
 
 
 鬱陶しそうにしっしっと手を振り視線から避けようとする水嶋さんの安定感は無性に安心感を感じとても心強い。つい数分前まで抱いていた、楓真くんも楓珠さんも不在の状況での一柳代表からの呼び出しに対する不安も多少は緩和されていた。
 
 
「それじゃあ話は纏まったね」
 
 
 いままでにこにこ笑顔で見守ってくださっていた楓珠さんの号令に全員がこくりと頷き、気付けばもうあと数分後には昼休憩だった。
 一柳代表がやってくるハッキリとした時間帯は知らされていないが、一柳ホールディングスとの商談は14時から。おそらくそれ前後だろうという予想からこのままたまには四人で近場のお店へ昼食を食べに行こうという楓珠さんの提案に満場一致で同意しソファから立ち上がる。
 
 
「楓珠の奢り~いちばん高いの食べてやる」
「お手柔らかに頼むよ水嶋くん」
 
「そういえば父さん、何か俺に用事だった?」
「ん?――あぁ、急ぎじゃないからまたで大丈夫」
「そ」
 
 
 水嶋さんを先頭に、楓珠さん、楓真くん、そして最後に僕が社長室の扉をくぐり、ぱたんと閉め振り返ると、律儀にも止まって待っててくださる三人の元へ駆け寄り、昼時の街へと繰り出していく。
 
 
 
 この時まではまだ、あの一柳代表と自分がメインで会うのだという実感が正直湧いていなかった――
 
 それが現実となって目の前にやってきた時、圧倒的なオーラに自分の無力さを実感し、何も出来ないつまらない人間なのだと現実を突きつけられるのは、もう少し先のこと――
 
 
 
 
 
 
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