92 / 131
3【招待という名の呼び出し】
3-10予期せぬアポイント(6)
しおりを挟むここは綺麗さっぱり潔く「無理なものは無理」ときっぱり言われるのだろう、という僕と楓真くん二人ともが浮かべた予想はすぐさまいい意味で裏切られることとなる。
「……まぁ、今回は仕方ねぇからついてってやる」
「え……?」
「確かにお前ひとりで行かせたら狼の中にうさぎ一匹送り出すようで後味悪い」
あえて視線をはずしぶっきらぼうにそう言ってみせる水嶋さんだが、気付けば僕も水嶋さんと共に仕事をしてきた年月はそう短くは無い程の時が経っている。
だから感じる、この不器用な人なりの優しさに胸がじわっと熱くなった。
「うん、水嶋くんもこう言ってるから安心して何かあったら彼を盾に逃げなさい」
楓珠さんの言葉にすぐさまおい、と肩を小突く二人のやり取りを目の前に「仲良いですよね」と肩を竦めながら失笑気味に笑う楓真くんをちらっと見ては、「そうだね」とつられて苦笑をもらし再び目の前に視線を戻す。
今まで幾度となくあらゆる場面で楓珠さんや水嶋さんには助けていただいてきた。
職場の上司として、人生の先輩として――この人達の助けがあったからこそ、今の自分の人生が上手くいっていると言っても過言ではない。
飄々としているように見えて実はものすごく頼りになる目の前で並んで座る大人組二人を、自分もいつか我が子たちにとってこういう大人になりたい、と秘かにロールモデルとして尊敬しているのはきっと僕だけじゃないはず――そう思い「ね」、と目線だけで楓真くんに問いかければ、何故か予想に反し悔しそうな表情が返ってきた。
「?」
「……俺がつかささんを守りたかったです」
きょとんとはてなマークを浮かべながら見つめる僕に対して、数秒黙り込んだ末にムスッと呟く楓真くんに、つい、ふはっと笑いがこぼれてしまった。
経験も考え方も大人組には到底及ばないまだまだ若くてかわいい僕の番。
だけど間違いなく紳士でスマートな楓珠さんの血を引いている楓真くんの今後の成長に期待していると同時に楓真くんは楓真くんのままでいいんだよという意味を込めくしゃくしゃっと頭を撫で水嶋さんへ向き直る。
「水嶋さん、よろしくお願いします」
「……おう」
「俺からも。知弦さん、つかささんをお願いします」
「はいはいわかったわかったわかったから堅苦しいのはやめろ」
鬱陶しそうにしっしっと手を振り視線から避けようとする水嶋さんの安定感は無性に安心感を感じとても心強い。つい数分前まで抱いていた、楓真くんも楓珠さんも不在の状況での一柳代表からの呼び出しに対する不安も多少は緩和されていた。
「それじゃあ話は纏まったね」
いままでにこにこ笑顔で見守ってくださっていた楓珠さんの号令に全員がこくりと頷き、気付けばもうあと数分後には昼休憩だった。
一柳代表がやってくるハッキリとした時間帯は知らされていないが、一柳ホールディングスとの商談は14時から。おそらくそれ前後だろうという予想からこのままたまには四人で近場のお店へ昼食を食べに行こうという楓珠さんの提案に満場一致で同意しソファから立ち上がる。
「楓珠の奢り~いちばん高いの食べてやる」
「お手柔らかに頼むよ水嶋くん」
「そういえば父さん、何か俺に用事だった?」
「ん?――あぁ、急ぎじゃないからまたで大丈夫」
「そ」
水嶋さんを先頭に、楓珠さん、楓真くん、そして最後に僕が社長室の扉をくぐり、ぱたんと閉め振り返ると、律儀にも止まって待っててくださる三人の元へ駆け寄り、昼時の街へと繰り出していく。
この時まではまだ、あの一柳代表と自分がメインで会うのだという実感が正直湧いていなかった――
それが現実となって目の前にやってきた時、圧倒的なオーラに自分の無力さを実感し、何も出来ないつまらない人間なのだと現実を突きつけられるのは、もう少し先のこと――
269
お気に入りに追加
615
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる