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2【動き出す思惑】
2-40穏やかな家族時間(1)
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キッチンから聞こえていたカチャカチャ食器を片付ける音も次第に聞こえなくなると、間もなくしてこちらへ向かってくる足音が近付いてくる。
それに合わせて顔を向ければ、すぐに目が合った楓真くんがにこりと微笑み、片付け終わりました、と報告してくれた。
「お疲れ様、ありがとね」
「つかささんも、今日一日お疲れ様でした」
「なんか、長い一日だったね…」
「ほんとーに」
怒涛の勢いで色んなことが起きたこの日は、お互い残業すること無く定時で共に退社するとそのまま楓珠さん宅へ子供たちを迎えに赴き、そこで双子からの熱烈なお出迎えで癒されたのち、早々に自宅へ帰宅すると手早く夕飯と入浴を済ませ今はリビングのソファでひと段落していた。
帰る道中も家に着いてからも子供たちはずっと小さな身体を精一杯動かしながら「ふぅくんね」「つぅくんがね」と喋って笑って昨日から今日にかけての幼稚園での出来事を代わる代わる話してくれたせいか、お風呂から上がった頃にはだんだん瞼が重たくなり、気付けばぱたりと電池が切れたかのように現在僕の膝の上で丸くなって眠っている。
両膝それぞれで膝枕をし、見事動けない僕のかわりに洗い物を引き受けてくれていた楓真くんもリビングへと戻り、やっと一昨日ぶりの家族四人揃ってのまったりタイムを過ごすことができそうだ。
自然と出る長年の手癖で僕の頭や頬を撫でながら隣に腰掛ける楓真くんはぐっすり眠る子供たちを見ては、ふふと笑いを漏らし、自分から近い僕の左膝で眠る楓莉のぺちゃっと潰れたほっぺをつんつんつつき感心したように二人を眺めている。
「二人とも、ぐっすりの割に寝てても全くつかささんから離れないですね…さすが俺の子。――って、うわぁもち肌やわらかぁ…」
「こぉら楓真くん、あまりつつくと起きちゃうでしょ、ほどほどにしてあげて」
さっきまで一歳児の相手をしていた影響か、つい楓真くんにも小さな子供相手にするような口調で注意してしまい、あ、と思った時にはもう遅かった。
幸い、気にするどころかノリノリではーい、といい子の返事を返してくれた楓真くんは楓莉の頬をつつく手をひっこめ、今度はよいしょと身体を乗り出し右膝で眠るつくしの頭も優しく数回撫でてから元の位置へと戻っていく。
その間すっかりパパの顔をしている楓真くんを温かい気持ちでにこにこ眺めていると、不意に子供たちを見つめていた楓真くんの視線が上に持ちあがり、パチッと視線が交わる。
その間たった数秒―――
気付いた時にはちゅっと唇を掠める柔らかな感触だけが残像として残っていた。
「ふふ、隙あり。俺もつかさママの充電が必要みたいです充電してください」
「……今ので90%くらいになったんじゃないかな」
「えーまだまだ50%以下でぇす」
そう言いながら僕の肩にぐでぇんと頭を寄せてくる楓真くんをくすりと笑いながら受け入れる。まるで大きな三人目の子供みたいだった。
「あー…俺も膝枕して欲しい…」
「残念ながら満員御礼でーす」
「くそー…予約制度導入検討ください」
「楓真パパはまた後でね」
くしゃりと楓真くんの頭を撫で、再び子供たちへ視線を向ける。
「昨夜の飲み会のせいで子供たちとは朝まで会えなかったし、朝も朝で迎えに行ってからもバタバタしてあまりゆっくりはできなかったからやっぱり寂しい思いをさせちゃってたよね、って反省中。子供の成長は本当に早いし、いつまでもこうしてひっつき虫してくれるとは限らないから…甘えてくれるうちはとことん甘やかしてあげたいなぁ…」
「そうですねぇ、いつかクソジジイとか言われる日が来るんですよ…まぁ、つかささんにそんなこと言った日には俺の雷が落ちますけどね」
「それも成長のうちだよ、ほどほどにね」
「はーい」
「楓真くんはいい子ですね~よしよ~し」
「もっと褒めてくださぁい」
子供たちを両膝に乗せ、くすくす静かに笑いながら軽くじゃれあっているとどちらからともなく自然と会話が途切れ、静かな空間に家族四人の温もりと穏やかな時間だけが流れている。
そんな安心する心地で不意に思い起こしてしまうのは今日起きた数々の出来事だった。
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