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2【動き出す思惑】
2-38反省(5)
しおりを挟む僕にも響く熱い思いを語ってくれた楓真くんからバトンを引き継ぐように、半歩前に歩み出て発言する意志を見せる。
「湖西くん、僕もいいかな?」
「……」
返事はないがこくりと頷く湖西くんを確認し、ありがとうと一拍置くと、今度は僕が思ったまま伝えたい言葉を紡ぐ。
「確かに僕と楓真くんには運命っていう大前提があったから普通とは違うかもしれないけど、伝え続けるっていう行為自体は、何もしないより人の心を動かす日が来るかもしれない確率は高いよね。現に楓真くんは僕の頑固な心の扉を毎日毎日こじ開けに来てくれた。閉ざされた扉の前でピンポンを押すかどうかで迷ってたら永遠に先には進まないよ」
「……」
「はー、さすがつかささん…めちゃくちゃわかりやすい例えです。いいか湖西、しつこく行け、他の犬たちを蹴落とす勢いで自分を押し売りしろ」
僕に拍手を送ったかと思えば、次の瞬間にはピンポンを高速で押す動作で湖西くんを煽る楓真くんはもはや、会社の社長というより、まるでお酒の席にいる面倒見のいい先輩のノリのよう。
その動きやばよ楓真くんといまだピンポンし続ける腕をペシペシ叩きながらくすくすと笑いが止まらない。
僕のツボに入ったことが嬉しいのか調子に乗って僕のほっぺへピンポンし始める楓真くんの指をガシッと掴み、やめなさい、と注意する茶番劇を繰り広げていると、今まで黙ってこのやり取りを見ていた湖西くんがポツリと言葉を漏らした。
「……何で、こんなに――」
「言っとくけど、ひとつ勘違いしないで欲しいのは、お前がつかささんにした事を俺は絶対に許さないし、今も別にお前を応援してるわけじゃない。とにかく誰でもいいからさっさと美樹を捕まえて欲しいだけ」
早く俺への関心を無くしてよ、とさぞ迷惑そうに言う楓真くんに僕も楓珠さんも苦笑を送るしかリアクションを取れずにいると、ひとり湖西くんだけは今までの僕たちの言葉に思うところがあったのか、ぐっと何かをこらえるような表情を一瞬見せたかと思えば、次の瞬間、深く頭を下げると小さく「本当にすみませんでした…」と心からの謝罪を口にしていた。
そんな湖西くんの様子を三人で見届けながら目を合わせ、自然と次やるべき事は自ずと見えていた。
湖西くんの処分。
改めてそれをどうするのか楓真くんを仰ぎ見れば、もう楓真くんの中で結論は出たのか最終確認のため楓珠さんへ視線を向けていた。
「父さん」
「うん、楓真くんの思うようにしなさい。この会社の社長はキミだから権限は楓真くんにあるよ」
今日はとことん見守りの体勢を貫く楓珠さんは言葉通り全権限を楓真くんに委ね、一歩後ろでふわりと微笑んでいた。そんな楓珠さんにこくりと頷く楓真くんは一瞬僕へ視線を寄越し、再び湖西くんへ向き直ると判決を言い渡すかのようにふぅ…と一つ息を吐き出した。
「秘書課所属、湖西 要―――美樹の協力者であるお前の採用ルートには裏があったかもしれない…だけどクビにはしない。その代わりこれからは俺の協力者としてこの会社の役に立ってもらう」
「……は?」
湖西くんの中では予想もしなかった事を言われ驚いているのだろう、心底驚きの表情で目を見開いていた。
「会社の機密事項とつかささんに関する事以外で美樹が喜びそうな情報なら自由に上手く使え。その分こっちにも美樹や一柳の動向は逐一報告してもらう」
「……もし、俺が裏切ったらどうするんですか」
その言葉を待っていたかのように、にやりと不敵に笑ってみせる楓真くんは自信満々に言葉を紡ぐ。
湖西くんの心に響く言葉を。
「お前は賢いだろ?どう動くのが今後自分に得か、よく考えればいい。応えは明日聞くから朝一で社長室に来るように。いいな?」
「―――はい」
どんな返事をするかの最終決定権は湖西くんに与えはしたが、恐らく楓真くんの中で既に応えは決まっているのだろう頭を下げる湖西くんを見つめるその表情には余裕の笑みが浮かんでいた。
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