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2【動き出す思惑】

2-37反省(4)

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「だから、俺はいつも必死なんです。美樹さんに関心を持ってもらうために」
 
 
 感情を抑えるかのようにぎゅっと強く握りしめた湖西くんの拳が細かく震えているのが視界に入り、無理やりにでも何か言わなくては…そんな思いで口を開こうとした、その時、横から聞こえた盛大なため息にギョッと目を見開き、その発信源である楓真くんを仰ぎ見た。
 
 そこには、見た事ないほど目に軽蔑の色を浮かべ湖西くんを見やる楓真くんがそこにいた。
 
 
「ふ…ま…くん?」
 
「――マジでくだらない」
「……は?」
「美樹との付き合いがそこそこ長いから必然的にお前ら取り巻きも色んな場面で見てきたけど、揃いも揃って一体美樹のどこにそんな宗教じみた崇拝思考を感じて集まってるのか……」
「あんたに美樹さんの何がわかる!」
 
 
 静かに時を刻んでいた時限爆弾の強制爆破スイッチが押されてしまったかのように湖西くんの怒りが突如として爆発する。
 それでも楓真くんの煽りにしか捉えられない言葉は止まらなかった。
 
 
「1ミリも理解できないしする気もないって話。俺が言いたいのは、お前の身勝手な点数稼ぎに巻き込まれるこっちの身になれ、迷惑だから」
「っ!生まれながら全てに恵まれたあんたにちまちま点数稼ぎするしか道が無い俺の惨めさなんてわかんないだろ!」
「だから理解する気もないって言ってんだろ。確かに俺はアルファで家柄も恵まれて、それは感謝してる。だけど、全部が全部最初から簡単に手に入ったわけじゃない。俺が一番心から欲しいと求めた運命の相手は、俺を運命だと認識してくれなかった」
 
「……楓真くん」
 
 
 湖西くんに向かって話していたはずの楓真くんの視線が、いつの間にか僕へと注がれる。
 今にも泣きそうな目で、僕を見つめていた。
 
 
「っ、」
 
 
 気付いた時には咄嗟にその手を握りしめていた。
 驚くほど冷たいその手をぎゅっと強く握り、初めて聞く楓真くんの心の声を一番近くで受け止める。
 
 
「どれだけ俺が愛を伝えても、俺の運命はそれを認めないし信じてくれない。自己肯定感の低い優しい人だから、自分なんか相応しくないって勝手に俺から離れようとする。
 だけど、この人が絶対に俺の運命だってわかってたから、俺は諦めなかった…諦めたくなかった……。
 持って生まれた家柄にまとわりつく外野のうるさい声を黙らせるのなんて、つかささんを説得するのに比べたら何倍も余裕で楽勝だって感じるくらい俺の運命は頑固だった。それでも、つかささんは俺のだ、誰にも渡さない、ってそれだけを強く思ってダサいくらい必死にアピールしたし、なんなら優しいつかささんの弱みにつけ込むみたいに何度も泣き縋ったりもした。この人は優しいから振り払うなんてことはしないってわかってたから。
 お前はそれくらい必死に美樹自身にアピールしたのか?どうせしてないんだろ?勝手に諦めて卑屈になっていつでも切り捨てられる都合のいい駒に成り下がってうじうじしてんじゃねーよ!」
「っ、」
 
 
 ビクッと肩が揺れた湖西くんは楓真くんの勢いに返す言葉が出てこないのか、目を見開き固まっていた。
 

 そして、僕も――。


 荒く呼吸を繰り返す楓真くんに握られた手から強い想いがひしひしと伝わってくる。
 いま僕たち二人の間に言葉はいらない。
 その代わり寄り添うようにそっと手を重ね、向けられた視線にふわりと微笑みを送った。
 
 
 楓真くんと出会ってからのこの数年間で自分はかなり変わったと思う。
 
 こんなにも素敵でかっこいい世界一つがい想いな最高のアルファに愛される自分は世界一の幸せ者だと、素直に受け入れられるようになったのだから。
 
 



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