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2【動き出す思惑】
2-29呼び出しside楓真(3)
しおりを挟む秘書課を飛び出し一直線に廊下を進めば、あっという間にエレベーターホールへと到着した。
最上階であるこの階に対して今現在エレベーターがいる位置をさっと確認するも、複数機ある内の上層階までやってくる2機は両機とも丁度下へ向かっている最中だった。
自然と漏れ出る舌打ち。
迷うことなくエレベーターという選択肢を捨て、すぐ隣の非常階段へと足を向けた。
防火扉を開け、踊り場から階を下り始めれば、各階へと続く扉は全て防火扉でしっかり塞がれているかつ、普段あまり使われず人の気配の無いこの空間は不気味と自分の靴音のみが上から下まで反響していた。
だがそんな事は気にせず、目的の階まで一目散に駆け下りていると、不意に胸ポケットに入れていたスマホがマナーモードで震えだし、その振動の長さから着信だと告げる。
対応している暇は無いと無視を決め込もうと取らずにいたが、あまりにしつこく振るえ続けるため、仕方なしに足は止めずチラッとスマホを確認すれば、表示されていた名前に目を見開き、結局足が止まってしまった。
まさかの今回の元凶――美樹からの着信だった。
どういうつもりでかけてきているのか、この無機質な機械からでは真意はまるで分からないがぶわっと怒りが膨れ上がり殴り押す勢いで応答ボタンをタップしすぐさま耳まで持っていく。
「美樹おま――『楓真早く来てぇっ』…は?」
いつもの憎たらしい態度で挑発してくるような内容を思い浮かべていた予想に反し、電話の向こうの声は涙声で焦りが感じ取れ、よく耳をすませば更に離れた所から何度もつかささんを呼ぶ湖西の声も確認できた。
「おい美樹!一体どういう状況だ!つかささんに何かあったのか!?つかささんは無事なんだよな!?」
『な、なんか、この人、急に過呼吸みたいに……ぼ、僕まだ何もしてないもん!!』
「――っち……」
『ひぅっ…!!楓真…あの…』
「いいか美樹…今すぐ行くからそこに居ろ…もしつかささんになにかあったら……ただじゃおかない…わかったな」
『ふ――』
美樹が何か言おうとしていたが聞きもせず一方的に言葉を投げつけるやいなや通話をぶち切り、再び足を動かし始める。スマホを胸ポケットへ戻す間も惜しいとそのままキツく握り締め、元の何倍ものスピードで現場へと向かった。
ものの数分で駆け付けた、例の忌々しい会議室。
開け放った扉の奥、やはりつかささんはそこに居た。
しかし、顔面蒼白の今にも気を失いそうな虚ろな瞳で湖西の腕の中にいる――そんな光景を目の当たりにしたその瞬間、一気に頭に血が上り、気付けば湖西の腕から自分の番を奪い返していた。
「美樹彦……」
「ひぅっ」
完全に気を失ってしまったつかささんを最小限の振動と丁寧な動作でそっと横抱きに抱き上げ強くその腕の中へ抱き締めながら、後ろの存在へ呟く怒りの呼びかけ。
ここまで怒りの感情に見舞われるのは数年前のまさにこの会議室でおきた事件以来。
「せいぜい覚悟は、できているんだよな?」
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