【BL】欠陥Ωのオフィスラブストーリー

カニ蒲鉾

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2【動き出す思惑】

2-14強制ラット(4)side花野井

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「先輩遅いなぁ戻ってこないなぁ…もうお昼先行っちゃっていいかなぁ…お腹減ったよぅ…」
 
 
 秘書課での歓迎会兼飲み会の次の日。
 つらい二日酔いもだいぶ回復し動けるようになった午前中、松野さんに取引先への諸々を説明していたらつい熱が入りすぎ普段の自分の業務である郵便物の仕分け作業をすっかり忘れていた。気付いた時には先輩が気を利かせ僕の代わりに仕分けしつつ、教えがてらにっしーを連れ郵便物を会長と社長の元へ届けに行ってくれたらしい。
 
 そして、帰ってきたのはにっしーひとりだった。
 
 
「すみませんつい俺が社長にビビってぴゃーって逃げ出しちゃったから…」
「もーだめだよぉにっしー、楓真くんを怒らせちゃ」
「うぅ…」
 
 
 軽くにっしーに何があったのか話を聞くと、郵便物の中に楓真くんの知り合いらしき人からの荷物が含まれ、雰囲気からして高級そうな贈り物に、踏み込んで関係性を聞こうとしたら睨まれビビって逃げてきた、との事だった。
 普段温厚な楓真くんだが、稀に見せるそういう所はアルファだな、ってつくづく思い知らされる。
 
 一人のオメガを守る為なら容赦なく牙を剥く、そんな姿。
 
 
「昨日も言ったでしょ?楓真くんの地雷はわかりやすいから、先輩に直接ちょっかいかけるのはもちろん、不安にさせることもNGだよ~」
「……アルファの過保護凄まじい」
「ねー、僕らベータじゃそこまでの愛情を向けることも向けてもらえることも考えられないや…羨まし…」
 
 
 楓真くんと先輩の出会いから結ばれるまで一番近くで見守ってきたせいか、いつしか二人の唯一無二な関係性に憧れを抱いてしまっていた。
 憧れるだけならタダ。
 ベータには到底そんな運命は現れない。
 わかってる。先輩みたいに誰か一人に心から大切に愛されるポジションになりたい、とは言わない。いつか身の丈にあった恋愛ができれば、それでいい。
 
 
「――ぱい、花ちゃん先輩?」
「――へ、」
「花ちゃん先輩、大丈夫ですか?」
「っ!!ごめんごめん!お腹すきすぎてぼーっとしちゃったみた――っわ」
 
 
 いつの間に近付いていたのか、にっしーのドアップが埋め尽くす視界に驚き反射的に座っていた椅子ごと体を後ろに引くと、あまりにも勢いよく後ろに後退しすぎたせいか、たまたま後ろを通っていた松野さんにドンッとぶつかり受け止められてしまった。
 珍しく僅かに目を見開きながら上から覗き込む松野さんを座った位置から見上げ、しばらく見つめ合う謎の時間。
 
 
「……大丈夫ですか」
「だい…じょぶ、です」
 
 
 体を離しても尚、触れられていた肩のあたりがじわじわと熱を帯びている気がする。
 
 
「花ちゃん先輩をナイスキャッチでしたね松野さん!」
「ね、このままゴロゴローって椅子が赴くまま壁に激突してたかも」
「あはは椅子もお腹もゴロゴロですね~」
「ホントだよぅ~お腹すいたぁ…」
 
「私、様子を見てきましょうか」
 
 
 いまだ後ろに立っていた松野さんは突然何を言い出すかと思えば今にも社長室へと向かっていきそうな勢いにギョッとし、全力で待ったをかける。
 
 
「わーーっ松野さんストップストップ!今行ってふたりの空間をお邪魔しちゃったら松野さんやぶ蛇になっちゃう!野暮なことはよしなされーー!」
「ですが…」
「もう僕達だけでお先にお昼いただくことにして、先輩には一言連絡入れときましょ!ね!」
 
 
 止める時に掴んだ松野さんの手首をいつまでも掴んだままだということを完全に忘れ立ち上がるとにっしーにも声をかける。
 
 
「にっしーもお昼行こ!」
「はぁーい!」
「行きますよ松野さん!」
「……はい」
 
 
 じーっと僕を見つめる松野さんににこっと笑みを送ると、空腹限界寸前のお腹を満たすため、意気揚々と背の高い二人を後ろに従え秘書室を後にする。


 全員不在となった秘書課の電気がパチッと消えた。
 
 

 
 
 
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