50 / 131
2【動き出す思惑】
2-12強制ラット(2)side楓真 (2/24修正)
しおりを挟むある瞬間、パチッと視界も思考もクリアになる感覚に一気に意識が浮上すると、頭にモヤがかかったかのように重だるかった身体はすっかり軽くなりスッキリしているのに反して、目の前はなんとも悲惨な光景が広がっていた。
「っ、つ、かささん…あ、ごめ、ごめんなさい」
ほぼ何も身にまとっていないに等しい膝立ちのつかささんは力なく上半身をソファへ投げ出し、腰を掴み持ち上げさせた下半身からはどろっと白濁が溢れ落ちていた。
背面からの体勢で、何度その身に自分の精を放ってしまったのか……朦朧とした意識は、幼馴染である美樹からの贈り物を開けてから記憶が曖昧だった。
「俺…おれ、なんてこと…」
「――ふ…まくん…よかった、落ち着いた…ね」
頬を紅潮させ吐く息は絶え絶えにも関わらず、俺を案じてくれるつかささんにぐっと込み上げる罪悪感。そんな気持ちに苛まれながら今はとにかく目の前の愛する人をいたわる事を最優先に行動した。
*****
「ん、ありがとう楓真くん、大分楽になったよ」
用意したホットタオルで身体を拭い、衣服を纏ったつかささんを汚れていない側のソファへ誘導し腰を下ろすのを手伝うと律儀にもお礼を言われてしまう。それだけでなく、その際つかささんが浮かべた笑顔の裏には体を酷使した疲労が垣間見え、消えない罪悪感に小さく息を呑みぐっと奥歯を噛み締めると、そのまま自分はソファへは腰掛けずつかささんの足元へ膝をついた。
隣に座らない俺をきょとんと見下ろすつかささんを情けなくも直視できなかった。
「楓真くん?」
「本当に…すみませんでした。ラットに負けて…自分本位につかささんを――」
バシッ!
「っ」
「これ以上謝るの禁止。次謝ったら怒るよ」
突然の衝撃に目を丸くする俺のヒリヒリ熱を持つ頬を両手に挟んだまま持ち上げ、真正面から力強く目を合わせるつかささん。
ついさっきまで俺に一方的に犯され、腹を立ててもおかしくない立場だというのに―――いつまでも俺はこの人の優しさに甘やかされている。
今ここが会社の社長室で、社長とその秘書という立場を忘れ、気を抜いたら目から零れてしまいそうな雫を誤魔化すためつかささんの足元に膝をついたままその腹にギュッと顔を埋め、そんな俺を呆れず優しく包み込んでくれる番にさらに強くすがりついた。
その後、落ち着いた?とつかささんに引っ張り上げられそんな権利はないと主張する俺を問答無用で隣に納め、逃げられないよう手をずっと握っていてくれるつかささんにぽつりぽつりと起きた出来事を話していく。
視線ははるか遠くに転がる例の箱を見据えながら。
「あの箱を開けた瞬間……美樹のフェロモンが強く襲ってきて、咄嗟に遠ざけたんですけど……」
「フェロモン……」
オメガもアルファも生まれつきフェロモンの香りはひとりひとり全然違った。
今もつかささんからほんのり香る爽やかな柑橘系の落ち着く香りとは違う、美樹の香りは強い薔薇の香りで昔からあからさまなセックスアピールが苦手だった。
「……そっか、だから僕にはわからなかったんだ。僕は楓真くんの香りしか知らないから」
「つかささん…」
幼少期にあった事故の影響で全くフェロモンを感じることができなくなったつかささん。その後、奇跡的に俺のフェロモンを認識してくれたことを引き金に、全てのフェロモンに対する強い拒絶反応が起きてしまった。当時かなり苦しみながらも解決策としてアルファと番になることを薦める担当医の言葉を二人で悩み考え決心をしてくださったつかささんと紆余曲折を経て番になれた。
番になったアルファとオメガは生涯良くも悪くも番のフェロモンしか感じる事が出来なくなる。拒絶反応もアレルギーの原理と一緒で次第に体が特定のものに対しては順応していくという担当医の見立てを信じた結果、今では俺のフェロモンしか感じないつかささんは無事拒絶反応も克服し、平穏に暮らすことが出来ていた。
番を持ったアルファやオメガのメカニズムからつかささんは美樹の強烈なフェロモンに気付くこともできなかったが、普通だったら俺もそのはず……が、とある事情からその部分が俺は人と少し違っていた。
34
お気に入りに追加
613
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる