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2【動き出す思惑】

2-12強制ラット(2)side楓真 (2/24修正)

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 ある瞬間、パチッと視界も思考もクリアになる感覚に一気に意識が浮上すると、頭にモヤがかかったかのように重だるかった身体はすっかり軽くなりスッキリしているのに反して、目の前はなんとも悲惨な光景が広がっていた。
 
 
「っ、つ、かささん…あ、ごめ、ごめんなさい」
 
 
 ほぼ何も身にまとっていないに等しい膝立ちのつかささんは力なく上半身をソファへ投げ出し、腰を掴み持ち上げさせた下半身からはどろっと白濁が溢れ落ちていた。
 背面からの体勢で、何度その身に自分の精を放ってしまったのか……朦朧とした意識は、幼馴染である美樹からの贈り物を開けてから記憶が曖昧だった。
 
 
「俺…おれ、なんてこと…」
「――ふ…まくん…よかった、落ち着いた…ね」
 
 
 頬を紅潮させ吐く息は絶え絶えにも関わらず、俺を案じてくれるつかささんにぐっと込み上げる罪悪感。そんな気持ちに苛まれながら今はとにかく目の前の愛する人をいたわる事を最優先に行動した。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
「ん、ありがとう楓真くん、大分楽になったよ」
 
 
 用意したホットタオルで身体を拭い、衣服を纏ったつかささんを汚れていない側のソファへ誘導し腰を下ろすのを手伝うと律儀にもお礼を言われてしまう。それだけでなく、その際つかささんが浮かべた笑顔の裏には体を酷使した疲労が垣間見え、消えない罪悪感に小さく息を呑みぐっと奥歯を噛み締めると、そのまま自分はソファへは腰掛けずつかささんの足元へ膝をついた。
 隣に座らない俺をきょとんと見下ろすつかささんを情けなくも直視できなかった。
 
 
「楓真くん?」
「本当に…すみませんでした。ラットに負けて…自分本位につかささんを――」

 
 バシッ!
 
 
「っ」
「これ以上謝るの禁止。次謝ったら怒るよ」
 
 
 突然の衝撃に目を丸くする俺のヒリヒリ熱を持つ頬を両手に挟んだまま持ち上げ、真正面から力強く目を合わせるつかささん。
 ついさっきまで俺に一方的に犯され、腹を立ててもおかしくない立場だというのに―――いつまでも俺はこの人の優しさに甘やかされている。
 
 今ここが会社の社長室で、社長とその秘書という立場を忘れ、気を抜いたら目から零れてしまいそうな雫を誤魔化すためつかささんの足元に膝をついたままその腹にギュッと顔を埋め、そんな俺を呆れず優しく包み込んでくれる番にさらに強くすがりついた。
 
 
 
 
 その後、落ち着いた?とつかささんに引っ張り上げられそんな権利はないと主張する俺を問答無用で隣に納め、逃げられないよう手をずっと握っていてくれるつかささんにぽつりぽつりと起きた出来事を話していく。
 視線ははるか遠くに転がる例の箱を見据えながら。
 
 
「あの箱を開けた瞬間……美樹のフェロモンが強く襲ってきて、咄嗟に遠ざけたんですけど……」
「フェロモン……」
 
 
 オメガもアルファも生まれつきフェロモンの香りはひとりひとり全然違った。
 今もつかささんからほんのり香る爽やかな柑橘系の落ち着く香りとは違う、美樹の香りは強い薔薇の香りで昔からあからさまなセックスアピールが苦手だった。
 
 
「……そっか、だから僕にはわからなかったんだ。僕は楓真くんの香りしか知らないから」
「つかささん…」
 
 
 幼少期にあった事故の影響で全くフェロモンを感じることができなくなったつかささん。その後、奇跡的に俺のフェロモンを認識してくれたことを引き金に、全てのフェロモンに対する強い拒絶反応が起きてしまった。当時かなり苦しみながらも解決策としてアルファと番になることを薦める担当医の言葉を二人で悩み考え決心をしてくださったつかささんと紆余曲折を経て番になれた。
 
 番になったアルファとオメガは生涯良くも悪くも番のフェロモンしか感じる事が出来なくなる。拒絶反応もアレルギーの原理と一緒で次第に体が特定のものに対しては順応していくという担当医の見立てを信じた結果、今では俺のフェロモンしか感じないつかささんは無事拒絶反応も克服し、平穏に暮らすことが出来ていた。

 
 番を持ったアルファやオメガのメカニズムからつかささんは美樹の強烈なフェロモンに気付くこともできなかったが、普通だったら俺もそのはず……が、とある事情からその部分が俺は人と少し違っていた。
 
 
 
 
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