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2【動き出す思惑】
2-5それぞれの朝(5)
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始業時刻まではまだ余裕のある時間帯。
15階にある秘書課には僕と水嶋さん瀧川くんの三人が出勤していた。
まだここにはいない三人も普段だったら既に来ているはずの時間だがまだということは、昨日の影響が出ているのだろうか…そう思いながら自分のパソコンを起動させていると、驚く程タイミングよく開く扉。
入ってきたのは、見るからに二日酔いの影響出まくりの雰囲気を纏った花野井くんだった。
「おはようございまぁ…す」
「おはよう花野井くん。……元気ないね」
「うぅ…ちょっと頭痛いです…二日酔いなだけなので大丈夫です~」
心配になるほど覇気のない挨拶をしたかと思えばふらふらぁと自分の席にたどり着きそのままなだれ込むように席に収まる。
そんな花野井くんを面白そうに揶揄う人がひとり。
「おぉー花ぁ、がっつり死んでんなぁあれからちゃんと家帰れたか~?」
「うぅぅ…ボスのせいだぁぁ…っ」
一体昨日何があったのか、記憶が全くない僕にはわからないが、自分よりさらに重症そうな花野井くんの様子にただただ心配でちらちら見つめていると、出力した資料片手に後ろを通る瀧川くんに「ほっといて大丈夫ですよ自業自得なんで」と言われた。
ほんとかなぁ…と苦笑していると「たっきー酷いぃ…」とやはり覇気のない声で言った花野井くんはそれっきりぱたりと静かになってしまった。
机にべたりと伏せすぐには仕事に入れなさそうな花野井くんに「気持ち悪かったら早めに言うんだよ」と声だけかけ、しばらくそっとしておこうと自分のパソコンに向き合う。メールひとつ開くにも朝一番特有の起動の遅さを感じながらじっと待っている間、不意に別れ際の楓真くんを思い出していた。
『つかささん…本当に大丈夫ですか…?』
何度目かわからないこのやり取り。
心配性な僕の番様は関係者しか通らない高層フロアとはいえ、秘書課の部屋の前という公共の場で僕の手を握りじっと見つめてくる。
ちなみにここまで一緒にやってきた楓珠さんは楓真くんのこのやり取りが長くなりそうだねと早いうちからご自分の部屋へと向かわれた。
『楓真くん、心配してくれてありがとう、だいぶマシになったし僕は大丈夫だよ』
『でもぉ…心配なんですもん…絶対に無理はせず、少しでもしんどく感じたら俺の部屋で休んでください』
『業務で必要になった時に行くね』
『はぁ…仕事でしか来てくれないってことだ』
『社長。本日も、お仕事頑張りましょう』
『……はい』
とまぁこんな感じで、なかなか傍を離れない楓真くん改め社長をどうにかその先の社長室まで送り出すのにだいぶ一苦労だった。
チラチラこちらを振り返りながら去っていく哀愁漂う後ろ姿を思い出しながら、後で社長案件の仕事でも持って顔を出すかぁ…と今手元にある資料をパラパラめくる。
そうしてる内に再び出入口の扉が開き、残りの二人も同時に出勤してきた。
花野井くんに比べそこまで二日酔いの影響は感じない二人はそれぞれ挨拶をしながらしっかりした足取りで各自の席へ向かっていく。
僕の隣の席の松野さんは「おはようございます」と言いながら自分の席へつこうと正面を見た際に目に入った伏せる花野井くんが心配になったのか、「大丈夫ですか…?」と声をかけていたが、それにも弱々しく手をフリフリして応えるだけの花野井くんだった。
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