【BL】欠陥Ωのオフィスラブストーリー

カニ蒲鉾

文字の大きさ
上 下
43 / 131
2【動き出す思惑】

2-5それぞれの朝(5)

しおりを挟む

 
 *****
 
 
 
 始業時刻まではまだ余裕のある時間帯。
 15階にある秘書課には僕と水嶋さん瀧川くんの三人が出勤していた。
 
 まだここにはいない三人も普段だったら既に来ているはずの時間だがまだということは、昨日の影響が出ているのだろうか…そう思いながら自分のパソコンを起動させていると、驚く程タイミングよく開く扉。
 入ってきたのは、見るからに二日酔いの影響出まくりの雰囲気を纏った花野井くんだった。
 
 
「おはようございまぁ…す」
「おはよう花野井くん。……元気ないね」
「うぅ…ちょっと頭痛いです…二日酔いなだけなので大丈夫です~」
 
 
 心配になるほど覇気のない挨拶をしたかと思えばふらふらぁと自分の席にたどり着きそのままなだれ込むように席に収まる。
 そんな花野井くんを面白そうに揶揄う人がひとり。
 
 
「おぉー花ぁ、がっつり死んでんなぁあれからちゃんと家帰れたか~?」
「うぅぅ…ボスのせいだぁぁ…っ」
 
 
 一体昨日何があったのか、記憶が全くない僕にはわからないが、自分よりさらに重症そうな花野井くんの様子にただただ心配でちらちら見つめていると、出力した資料片手に後ろを通る瀧川くんに「ほっといて大丈夫ですよ自業自得なんで」と言われた。
 ほんとかなぁ…と苦笑していると「たっきー酷いぃ…」とやはり覇気のない声で言った花野井くんはそれっきりぱたりと静かになってしまった。
 
 机にべたりと伏せすぐには仕事に入れなさそうな花野井くんに「気持ち悪かったら早めに言うんだよ」と声だけかけ、しばらくそっとしておこうと自分のパソコンに向き合う。メールひとつ開くにも朝一番特有の起動の遅さを感じながらじっと待っている間、不意に別れ際の楓真くんを思い出していた。
 
 
 
 
『つかささん…本当に大丈夫ですか…?』
 
 何度目かわからないこのやり取り。
 心配性な僕の番様は関係者しか通らない高層フロアとはいえ、秘書課の部屋の前という公共の場で僕の手を握りじっと見つめてくる。
 ちなみにここまで一緒にやってきた楓珠さんは楓真くんのこのやり取りが長くなりそうだねと早いうちからご自分の部屋へと向かわれた。
 
『楓真くん、心配してくれてありがとう、だいぶマシになったし僕は大丈夫だよ』
『でもぉ…心配なんですもん…絶対に無理はせず、少しでもしんどく感じたら俺の部屋で休んでください』
『業務で必要になった時に行くね』
『はぁ…仕事でしか来てくれないってことだ』
『社長。本日も、お仕事頑張りましょう』
『……はい』
 
 
 
 
 とまぁこんな感じで、なかなか傍を離れない楓真くん改め社長をどうにかその先の社長室まで送り出すのにだいぶ一苦労だった。
 チラチラこちらを振り返りながら去っていく哀愁漂う後ろ姿を思い出しながら、後で社長案件の仕事でも持って顔を出すかぁ…と今手元にある資料をパラパラめくる。
 
 そうしてる内に再び出入口の扉が開き、残りの二人も同時に出勤してきた。
 花野井くんに比べそこまで二日酔いの影響は感じない二人はそれぞれ挨拶をしながらしっかりした足取りで各自の席へ向かっていく。
 僕の隣の席の松野さんは「おはようございます」と言いながら自分の席へつこうと正面を見た際に目に入った伏せる花野井くんが心配になったのか、「大丈夫ですか…?」と声をかけていたが、それにも弱々しく手をフリフリして応えるだけの花野井くんだった。
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...