40 / 131
2【動き出す思惑】
2-2それぞれの朝(2)
しおりを挟む頭痛も幾分かマシになった頃合いを見計らいベッドから起き上がると、パジャマのまま軽くカーディガンを羽織りリビングに顔を出す。続くダイニングキッチンで手際よく朝食の準備をしてくれているお目当ての姿をすぐに見つけることができた。
楓真くんの方も、丁度とき終わった卵をフライパンに流し入れ熱し始めたところで僕に気が付き、器用に声をかけてくる。
「起き上がって大丈夫そうですか?もうすぐ出来ますから、座って待っててください」
何か手伝うべきかと思ってやって来たが、ありがたくその言葉に甘えダイニングテーブルに腰掛けると、そこから見えるキッチンの景色を頬杖をついてぼぉっと眺める。ジューっと卵の焼ける音が心地よかった。
―――待つこと数分。
「はぁい、お待たせしました~」
「ありがとう楓真くん」
目の前に置かれたのは、トーストとサラダとスクランブルエッグがバランスよく盛られたワンプレート。マグカップには湯気がたつコーヒーが注がれる。
美味しそうな香りに少しは食欲もわき楓真くんを見上げると、彼は一つ微笑みを落としそのまま座らずキッチンへと戻っていく。軽くキッチンの片付けまで済ませる楓真くんを大人しく待っていると、やがて、僕がいまだ食事には手を付けず自分を待っていることに気が付いたのか、慌ててエプロンを外しながら準備が整ったテーブルまでやって来る。
「えぇ俺を待ってないで先食べててくださいよ~ごめんなさいお待たせしました」
「ううん、ご苦労さま」
目の前の椅子を引く楓真くんは寝起きのスウェット姿にも関わらず爽やかさとカッコ良さは番の贔屓目から見ても誰にも負けないな…なんて思う。そんな楓真くんをぼぉっと眺めてしまっていると、つかささん?と心配そうに覗き込まれ声をかけられた。
「まだ頭痛や吐き気辛いです?無理して全部食べなくていいからね、でも何かしら口にはして欲しいのでサラダだけでも…残った分は俺が食べます」
「大丈夫だよ、美味しそう。いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
心配そうに見つめられる視線を感じながらフォークを手に取り一口分のサラダを静かに咀嚼し嚥下するまでを満足いくまで見届けた楓真くんもいただきます、と食事をはじめた。
テレビもつけず、カチャカチャとお皿とフォークがあたる僅かな音のみが響く食事風景。
初めは一定の間隔でフォークを口へ運んでいたが、結局みるみるうちに食事に手を伸ばす速度が減速していった僕を見逃さない楓真くんは「無理しないで」とスマートな流れで自分の全てたいらげたお皿とまだ半分は残っている僕のお皿をトレードしていく。
やっぱり楓真くんは誤魔化せない。彼は僕の様子の変化を誰よりもよく見て察知するエキスパートだった。
一人前を既に食べ終えているにも関わらず、変わらないスピードで気持ちのいい食べっぷりを披露する楓真くん。こうして、僕に罪悪感を与えないよう配慮してくれる心優しい番にそれでもやはり申し訳なく思いながらご馳走様でしたと手を合わせると、お皿はそのまま置いておくよう言われる。
「後の片付けも俺やっとくのでつかささんは先に出勤の準備しちゃってください」
「でも、何から何まで…」
「いーの、俺は5分もあれば整います」
だから無理せずゆっくり準備してきてください、と背中を押された勢いのままリビングを出てきてしまった。
閉めた扉にとんっと背をもたれさせ、ふぅ…と小さく息をつく。とことん僕を甘やかす楓真くん。このままじゃ僕は楓真くんがいないとダメダメ人間になってしまうよ…なんて、届かない心の声を残し寝室へ準備に向かった。
14
お気に入りに追加
617
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる