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1【職場復帰】
1-33従順なイヌside??(2)
しおりを挟む不意にポタリと落ちる冷たい雫が首筋に伝い、視線をあげればシャワーを浴びたばかりの美樹さんの髪がまだ濡れていることに気が付いた。
ちなみに余談だが、彼は本名の美樹彦という名前は可愛くないという理由から大層不満があるらしく、呼ぶととてつもなく怒り機嫌を損ねてしまうため、必ず本名で呼ばないよう徹底していた。
「美樹さん、髪乾かさないと風邪引きますよ」
「めんどくさーい。ワンちゃんやって」
パッと離れ、隣にちょこんと座る何もかもがあざとい彼に苦笑を漏らしながら洗面所までドライヤーを取りに行く。
ほんと、オトコ心を擽るのが上手い人。
すぐに寝室へ戻るとドライヤーをしやすいようベッド脇に移動してくれている姿にさらに苦笑を深め、「お待たせしました」と声をかけながらサイドに立ち、美樹さんの綺麗な髪に丁寧に風を当てていく。「熱くないですか?」と聞けば「大丈夫~」と返ってくる穏やかな会話。
あまりにも日常的な穏やかなやり取りに錯覚してしまいそうになる。自分はこの人の特別なのだと―――
自惚れるにも程がある。
髪の隙間から覗く細い首に巻かれたオメガの象徴とも言えるうなじを守るためのチョーカーを眺めながら嫌という程わからされる。
この人は自分を信用してはいない。
いつでも切り捨てることの出来る使い捨ての駒。
それと同時に脳裏に浮かぶのは、気持ちよさそうに髪をとかれ目を閉じる彼がついさっきまで自分の下で淫らに喘いでいた非日常。そんな不埒な思いに浸りながら髪を乾かすのに夢中になっていると不意に「ねぇ」と声をかけられた。
「ど?御門ホールディングスに入り込んでみた感想は。上手く手を回すの大変だったんだからね~」
「まさかこんなにも都合よく秘書課に配属されるとは思っていなかったので、ありがとうございました」
「い~え~楓真元気にしてる?」
「そうですね、日々活躍されています」
「さすが僕の楓真!社長就任のお祝いまだ送ってないんだよね~何が喜んで貰えるかなぁ…」
「美樹さんからの贈り物ならなんでも喜んでくださいますよ。……あと、今日から番のオメガが戻ってきました」
「……あぁそう」
例のオメガの話題を出した途端、数秒前までの楽しそうなテンションが嘘のように急激に冷めた表情になる美樹さんは常に喜怒哀楽が激しくわかりやすい。
御門楓真の事になるとそれがさらに顕著だった。
能面のような冷たい表情のままじっと見上げてくる美樹さんの視線をまっすぐ受け止める。
「お前に頼んでたこと、わかってるよね?」
「大丈夫です。今日も丁度、秘書課で飲みの集まりがあったので試しに少量酒に混ぜてみましたが酩酊状態は確認できました。容量を増やせばおそらく…」
「ん、さすが僕のワンちゃん。いい子だね」
すっと上へ伸びてきた手が頬をするりと撫でるとそのまま髪の毛を絡ませながら後頭部に回り、美樹さんを後ろから覗き込むようにぐいっと引き寄せられたかと思えば――くちゅ、と唇が重なり合う。
彼にとっては些細な行為。
だが、自分たちイヌにとっては理性の糸がプツンと切れるには十分だった。
ドライヤーなんて放り出し、華奢でされるがままの体を簡単にベッドへ押し倒す。
まだ濡れた髪が散らばる様が、更に美樹さんを妖艶に魅せた。
「従順でかわいい僕のワンちゃん。ご主人様があまぁいご褒美をあげるから、もっと僕を満足させて?」
ガウンがはだけたその先の奥。
いまだ柔らかくぬめるその穴を自ら淫らに広げるご主人様に誘われるがまま…より甘美な蜜を味わうため、忠誠心に溢れたイヌのように、時には働き蜂のように、明日からもせっせと動き回る。
社長、橘さん、どうか悪く思わないでください――
ご主人様に少しでも多く振り向いてもらうためこっちも必死なのだ。
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