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1【職場復帰】
1-30大好きな先輩side花野井千佳(2)
しおりを挟む『花野井、まだ秘書課続いてるらしいな』
『あー…仕事できなくても顔でなんとかなるだろ、はべらせとけば取引先からも好評なんじゃね?』
『間違いねーっ』
まさかすぐ近くに当人がいるなんて一切気付きもせず、あははっと盛りあがっている様子の二人組。
最近はあまり聞こえてきていなかったこの久々の感覚にギュッと唇を噛み締める。
そういうことを言うヤツらは実際の努力なんて見向きもせず自分たちの都合のいいように憶測でしかものを言わない。
最近の僕のことなんて何も知らないくせに。
それよりも、秘書課内では、“明るく元気な花野井くん”で通っていたから、そんなことを同期から言われてるなんて事実を同じ課の人たち…ましてや大好きな先輩には知られたくなくて…惨めに思われたくなくて、滲みそうになる視界を必死に堪えながら無理やり笑って誤魔化そうとした。
……だけど、いつも笑顔の先輩がその時だけは笑っていなかった。
『花野井くん、無理して笑わなくていい。花野井くんの努力はわかってる人にはちゃんとわかってる。もちろん僕も。花野井くんがいてくれて今の秘書課はすごく助かってるんだよ』
『~~せんぱいぃぃ…っ』
見守るように優しく、僕が理解できるまで見捨てず、できたら褒めてくれる大好きな先輩。あの時、先輩の胸で泣いたのが最後、それ以来僕は周りの言葉なんて一切気にせず、ただ先輩にとって信頼のおける強い後輩になろうとがむしゃらに頑張った。
これはボスから聞いてあとから知ったことだけど、誰よりも仕事ができる優秀な先輩が僕と全く同じようなことを社内中から言われ続けていたらしい。
学歴もないオメガのくせに――と。
悔しい思いを自分自身経験してきた先輩。
だから余計親身になってくれていたのだと理解したと同時に、先輩もいろんなしがらみを乗り越えて今があるのだと思うと俄然心強かった。
僕が辛い時助けてもらったように、先輩が困ってる時は絶対力になる、そう決めて一番先輩の近くで一緒に仕事をしてきた。
あれから数年――少しは先輩に恩返しができているだろうか?
楓真くんという容姿も能力も家柄も全てにおいて申し分ないどこからどう見ても完璧なアルファに見初められ、困惑しながらもいつもと様子が違う先輩を見る度に、おやおや?と自分の事のように嬉しく思いながら見守ったのを今でも思い出せる。
先輩を幸せにできる人は楓真くんだと思ったから、先輩には悪いけどだいぶ初期段階から楓真くんとは協力体制ガッチガチの徒党を組んでいた。
ふたりの間に沢山色んなことがあったけど、無事ふたりが番になって、かわいい双子まで生まれ幸せそうな先輩を見るのが僕の幸せ。
それだけでニマニマ笑顔になってしまう。
これからもずっと、僕の大好きな先輩は誰よりも一番幸せでいてほしい。その為にも先輩が育児休暇から戻ってくるまでの間の先輩のポストは意地でも守ってきた。
パズルのピースはひとつしか正解が無いように、楓真くんの隣は仕事もプライベートも先輩にしかつとまらない。同じように、先輩の隣も楓真くんしかありえない。
誰もふたりの間に入る隙なんてない。
僕が断固として邪魔させない。
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