33 / 131
1【職場復帰】
1-28お迎えside楓真(8)
しおりを挟む「――うん、うん、ごめんいつもありがと父さん。じゃあ明日の朝子供たち迎えに行くから…うん、おやすみ」
とんっと画面をタップし通話を切る。
コインパーキングまではなんとか歩いてたどり着いたつかささんの様子から勝手に判断し、車に乗り込んですぐに父さんに電話を一本入れ終えるとスマホをしまいながらシートベルトを締め「お待たせしました」と助手席に座るつかささんをチラッと見やる。
すると、やけに静かだなと思っていたつかささんは全身の力を抜いたように深く座席に沈み込み手の甲で顔を覆っていた。そんな様子にギョッと驚き、気分がまた悪くなったのかとあらかじめ買っておいた水を片手に、締めたばかりのベルトを外すとつかささん側に体を乗り出し顔を覗き込んだ。
「つかささん?気持ち悪いです?」
「―――んーん、大丈夫…。
いろんな人に迷惑をかけて自分の不甲斐なさに猛反省中…。帰ったら子供たちにいっぱいよしよししてあげたかったのに、こんな状態じゃ逆に心配かけちゃうし…親失格だよ…うぅ…」
「もー…びっくりした、そんな事ないですから。とりあえず水飲んでください、寝てていいですからね家着いたら起こします」
「何から何までごめんね…ありがとう」
しゅんとしながら水を受け取り口をつける姿をハンドルにもたれ掛かりながら見届ける。数口飲み、口を離すと両手でペットボトルを握りしめ、はぁとため息をもらしていた。
「――…なんか、僕こんなにもお酒弱かったかな…」
「久しぶりだったからですかね?」
「うーん…」
「気持ち悪くなったらすぐ言ってくださいね、出発しますよ」
「うん。……フェロモン、ありがと…落ち着く」
「はい」
どこか腑に落ちないように首を傾げながらもシートベルトを締めたつかささんを確認し、ゆっくり車を発進させる。つかささんが安心できるよう狭い車内に自分のフェロモンを流し続けながら夜でも明るい都会の道を走り続けた。
十数分後。
道中特に渋滞することも無くスムーズに自宅マンションの駐車場へ到着した頃には助手席からすーすーと僅かに吐息が聞こえ、チラッと確認すれば安らかな寝顔につい笑みがこぼれた。
いつまでも眺めていたい気持ちをぐっと呑み込むと最小限の音で運転席を出ては素早く車をまわり助手席側へと移動する。
ドアを開け、眠るつかささんの顔を眺めながらそっとシートベルトを外すとまったく起きる気配のない熟睡な様子にさらに笑みをこぼすと、体の隙間に手を差し入れる。
こんなにも穏やかに眠っているつかささんを起こす選択肢は無かった。
普段どちらかというと自分が年上だからと、率先してしっかりしようとするつかささん。
そんな彼がこんなにも無防備にされるがまま、世話をやかせてもらえるのが楽しくて仕方ない。
自分のオメガをとことんデロデロに甘やかしたいという思いはアルファなら抱いて当然の欲望。そんな欲をここぞとばかりに発揮しながら、起こしてしまわないよう慎重に横抱きで抱き上げ大切な存在の重みを腕の中でしっかり確かめると、そのまま自宅へと連れ帰るのだった。
14
お気に入りに追加
608
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」
悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、でもなぁ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。
凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身も弱い。
なんだろこのイケメン、と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。
契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします!
トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。ちょっと仲良くなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨
表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま
素敵なイラストをありがとう…🩷✨
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる