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1【職場復帰】
1-26お迎えside楓真(6)
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いらっしゃっせーとひとりが言えば間髪入れず威勢のいい声があとに続く居酒屋特有の慣れない歓迎に出迎えられながら店の敷居を跨いだ。
遡る事、数十分前。
つかささんからのあの着信を受け、イマイチ状況が掴めないままとにかく急いで家を飛び出すと事前に知らされていた居酒屋へと車を飛ばした。
会社近くの店という事もあり到着までそう時間もかからず周辺までたどり着くと、逸る気持ちを抑えながら近くのコインパーキングになかば乗り捨てるように車を停め、店へと向かう。
普段あまり近寄る機会が少ない居酒屋が建ち並ぶ飲み屋街。多種多様な目的で声をかけてくる人をことごとくスルーし、店名を頼りになんとか見つけた店内は週始めにも関わらずサラリーマンや学生で賑わいどこのテーブルもおおいに盛り上がっていた。
案内してくれようと近寄る店員を片手で制しながら店内をざっと見渡す。こういう時、頭一つ二つ飛び抜けた身長と目線の高さは有利で便利だった。こちらが見つけられなくとも、向こうからも見つけてもらいやすい。
「あっ楓真くん!こっちこっち!」
「花ちゃん――」
呼ばれた声に視線を向ければすぐに奥のテーブルで見知った顔を見つけ、一目散にそちらへ向かう。
「楓真くんお迎えご苦労さま~~」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です社長!」
「うわ…マジで来た…お前も暇かよ」
6人がけのテーブルの上には散々食べて飲んだ形跡の見られる惨状とそれを囲むようにして、お酒が入って普段よりさらにふわふわにこにこしてる花ちゃんと、寄りかかられてウザそうにしている瀧川さん、学生のノリがまだ抜けないような挨拶をしてくる湖西くんと、その場にいること自体が珍しい知弦さんの4人はいたが、肝心のつかささんの姿が見えない。ついでに松野さんも見当たらない。
「お疲れ様です、あのつかささんは…?」
「先輩ならいま松野さんに連れ添われて御手洗だよ~まちがえてボスのお酒を飲んじゃって――って楓真くん!?」
花ちゃんの説明を最後まで聞き終わる前に足が御手洗へと向かっていた。
無意識のうちに相当早歩きになっていたらしい、正面から来た女子大生とすれ違いざまぶつかりそうになるのをギリギリで避け、ごめんね、と一言謝りを入れて先に進む。後ろからきゃぁっと聞こえてきたが構っていられなかった。
たどり着いた御手洗は右手に女性、左手に男性に別れ、中でさらに数個の個室や手洗いがあるまぁまぁ居酒屋にしては広い御手洗のようだ。
中でつかささんが倒れていたら…と焦る気持ちで閉じられた男性側の扉へ手をかけ一気に手前に引けば、そこには、入ってすぐふたつある手洗い場の鏡越し、松野さんに後ろから支えられるようにして立つつかささんと目が合った。
「つかささん」
「―――ふ…まく」
ぽつりと呼ばれた俺の名前は、いまにも意識を飛ばしそうなほど弱々しい声だった。
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