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1【職場復帰】
1-18社長の番(6)
しおりを挟む元々、休暇を取る前から社員食堂は人の多さ故にあまり利用してはいなかった。周りを見渡すと気付けばほとんど満席状態で今日も一人だったらおそらく足を運ぶことすらしていなかったと思う。
そんな久しぶりの社食での食事。
一口食べてその美味しさに「んっ」と目を輝かせ静かに感動していると、すかさず隣から「美味し?」と投げかけられる。
考えるまでもなくうんうん頷くと満面の笑みで嬉しそうに「でしょ」と言う楓真くん。そんな誇らしげな様子に、ん?と続きを促せばその口が語る理由に大いに納得した。
「社員さんたちあっての会社ですからね、わたくし楓真社長、まずは食の改善からはじめました。実はここ最近リニューアルしたばかりなんですよ」
「あ―――……なるほど、ふふ…、いい仕事しましたね、社長」
楓真くんの社長としての最初の仕事が、利益を出すためのものでもなくただ社員のためを想ってのことだと知り、これをどう評価するかは各人の捉え方の問題で、僕は彼の秘書として、パートナーとして、彼を誇りに思う。
じっと見つめれば、さらに笑みを深める彼に釣られてこちらまで笑みを浮かべてしまう。これも楓真くんの持つ強みだと僕は思う。
このまま穢れず、自然と誰からも愛され尊敬されるいい社長になって欲しい。
その為に、一番近くで力になって支えたい。
「これからもいい会社にしていきましょうね」
「……はい。その為にも皆様、この新米社長に何卒お力添えの程よろしくお願い致します」
昼休憩特有の騒がしいBGMをバックに、全員の顔を見渡し告げる楓真くんの顔は何故かより一層頼もしく見えた。
*****
「先輩と楓真くんだと、やっぱり料理は先輩がするんですか?」
「え、花ちゃん何その先入観。俺料理しなさそうに見える?」
「うん、見える」
食事も終盤に差し掛かった頃、談笑の流れで出てきた花野井くんの何気ない質問と容赦ない答えに楓真くんはダイレクトにガーンとショックを受けて、松野さんはクスッと笑うものの聞くに徹するようで、話には入ってこなかった。
「えー、なんかすごいショック受けてるけど楓真くんって金持ちボンボン育ちじゃん?自分で料理なんか一切しなさそう」
どうなんですか先輩、と花野井くんの矛先が僕に向き、なんて答えようか考えながら一度ショックから抜け出せない楓真くんをチラッと見ては花野井くんに苦笑を送る。
「ふふ、楓真くんが作る料理は手が凝っててオシャレで美味しいんだよ?でも基本僕の方が時間的に余裕があったからほとんど僕が作ってるかな、簡単なものしか作れないけど」
「そんな事ないです!つかささんのご飯が世界一!どの三ツ星レストランよりも美味しいです!」
しょげていたのが嘘のように瞬時に復活すると熱く力説する楓真くんにハイハイ黙ってね~と軽くいなす。花野井くんも都度生暖かい目で見てくるのはやめて欲しい。松野さんは…相変わらず何を考えているか読めない表情をしていらっしゃった。
一度黙らされた楓真くんだがふんふん鼻歌でも歌いそうなノリで今夜のご飯を聞いてくる。
「つかささん、今日の夕飯はどうしましょうか…さすがに初日で疲れてますよね子供たち迎えに行ってそのままどこかで食べるか出前でもとるかします?俺はどちらでもありです」
「あ……そうだ、ごめん楓真くん、あとで相談しようと思ってたんだけどね、」
「先輩は今日は就業後、僕たちとご飯です~」
「………は?」
あとでうまく伝えようと思っていた飛び入りの夜のスケジュールは、想定していたのとは全く違う形でこの場で初めて伝えることとなった。
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