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1【職場復帰】

1-17社長の番(5)

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 タイミング良く4人座れるテーブル席も見つかり、それぞれ注文したものをテーブルへおろすと、この昼時の混雑するカフェで難なく腰を落ち着かせることに成功した。
 
 
「すぐに席が見付かってラッキーでしたね~!もうお腹ぺこぺこ~」
「花野井くんの瞬発力のお陰だね」
 
 
 松野さんに感心するように言われ、えっへんと誇らしげに胸を張る花野井くんは空席探しの達人だった。死角も逃さない鋭い洞察力でカフェ内を見渡し、ほとんど埋まる席の中から今いる席をすぐさま見つけ出したのだった。
 
 素晴らしい功績を成し遂げた花野井くんは席に座るやいなや、しきりに向かいに座る僕や楓真くんにちらちらと目配せを投げてくる。
 それは暗に、もう食べてもいいかの確認で、お預けを食らってる子犬状態につい苦笑しながら頷くと、ぱぁっと顔を輝かせた花野井くんはパシンっと子気味いい音を立てながら手を合わせる。その勢いに僕達も釣られ手を合わせると、全員手を合わせたことを確認した花野井くんの弾む元気ないただきますの声がカフェ内に木霊した。
 
 
 早速箸を握ると目の前に置かれた自分の顔以上もの大きさがありそうなカツ丼に意気揚々と手を伸ばし、そんな小さな口に入り切るのかと心配になるほどもりもりと口に含んでいく。その様子がまるで両頬に一生懸命ものを蓄えるハムスターの様で見ていて場の空気がほんわかした。
 
 
「あまり急いで食べると喉につまらせるよ?」
「たいじょーぶれふよぉ」
 
 
 それでもあまりにも次から次へと詰め込んでいくものだから心配して声をかければ、ふがふがと聞き取りにくくも返事をしたその拍子に、案の定ごふっと噎せていた。
 
 
「わ、大丈夫?突然話しかけてごめんね」
「花ちゃん大丈夫?ほらお水飲みな~?」
「ごほごほごほっ、、ありがとぉ~」
 
 
 慌ててコップの水を差し出す楓真くん。よろよろと伸びてきた手が受け取り一気に飲み干してしまう。
 
 
「ゆっくり食べな」
「ごほごほっ…はぁい…」
 
 
 そんな慌ただしい花野井くんの様子を横目に眺めていた松野さんも一旦落ち着いた事を確認するとやっと自分のそば定食へ手を伸ばす。サイドの天ぷらが美味しそうだ。
 
 
 目の前のふたりが食事に取り掛かったところで僕も割り箸を手に取りパキンっと音を立てながら二本に割りさいた。
 一旦、僕の前にはマグロカツ定食が、隣に座る楓真くんの前にはチキン南蛮定食が置かれ、注文前の約束通り、使う前の箸でマグロカツを掴むと数切れ楓真くんのお皿へ移動させる。
 
 
「また欲しかったら言ってね」
「ありがとうございます、つかささんも南蛮どうぞ」
 

 すぐさま空いたスペースにチキン南蛮が置かれ、ありがとうとお礼を言いながらそのまま貰った物から食べようと箸を伸ばした拍子に、ふと感じる視線にピタリと動きを止めた。そろそろと顔を上げれば、生暖かい目をした花野井くんとバッチリ目が合ったのだった。

 
「……何かな?」
「仲良しですねぇ…良きかな良きかな」
「……」
 
 
 咄嗟に顔を赤くする僕と満更でもない表情の楓真くん。誤魔化すように、早く食べよっと食事を促すのだった。
 
 
 
 
 
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