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1【職場復帰】
1-14社長の番(2)
しおりを挟む“社長室”
何度見ても一際立派な重厚感のある扉の前まで戻ってくるとお願いしますと目配せで前を譲り、トレイで両手が塞がる僕の代わりに松野さんが控え目にノックをしその扉を開けた。
普通ならそのまま入室していくだけの事なのに、目に飛び込んできた光景に二人してぴたっと動きが止まってしまった。
「……社長、だらしないですよ」
沈黙の末、出かけたため息を無理やり呑み込みなんとか発した言葉。
もし入ってきたのが何も知らない別の社員だったら――考えただけでゾッとする。
ソファに仰け反り顔が逆さに目が合う社長の図…そんなものビックリしていまの時代SNSになんて書かれるか知れたものじゃない。
注意したと同時に立ち上がり手伝うと主張する楓真くんを問答無用で断るとしゅんとした表情で僕を見るのが視界の端に映ったが、心を鬼にしてスルーを決め込み素早い動きでソファまで向かい配膳をはじめる。
優しいのは楓真くんのいい所なんだけれど、頼むから社長は社長らしくどっしり構えていて欲しい。
番としての僕はすっかりなりを潜め、長年御門ホールディングスに勤めた秘書として教育的指導を心に誓った。
最小限の音で済むよう注意を払いつつスピーディに卓上をセッティングしていく。一年以上のブランクはあれど長年の業務はやはり体に染み付いていた。
綺麗に配膳されたテーブル上を満足気に確認し終え、自分も腰かけようと視線を上げてはたと気づく。
この4席ある中でわざわざ隣同士に座る二人。
ここで花野井くんに対する嫉妬心なんかが生まれ、傷付いた表情でもすれば、もし僕が恋愛物語の主人公だったら大きく話が動いたりするのかな…とか、社内スクープとして『社長と秘書二人、泥沼三角関係』なんて見出しで大きく騒がれたりするのかな、とか頭の片隅でちょっと思った。
ちょっと思ったが―――
生憎、楓真くんと花野井くんがいくら密着していようが可愛い二人が仲良くじゃれてるなぁとしか僕は思わない。
それくらい、二人の仲をよく知っているし、二人の連携の良さで過去助けられた事もあり、その点に関しては全く心配していなかった。
それに、花野井くんはいい意味で楓真くんを上司扱いしない数少ない理解者だと勝手に分析している。僕には言いづらい相談も花野井くんに話してスッキリ解決するのなら僕は空気に徹する。7つも年下の楓真くんの心やすらぐ同年代の仲に割って入るほど子供では無い。
だから慌てて花野井くんが席を譲ってくれようとするのを落ち着いて静止した。微笑みも添えて。
二人の視線がじっと僕の動きを追いかけてくるのをひしひしと感じながら空いている花野井くんの向かいに腰掛け、ここでやっと斜め前の楓真くんに視線を送る。
だけど楓真くん。
そこは立場的に社長が座る位置ではないですよ?
それに、僕の隣にきみ以外が座るけどいいのかな?
「何してるの楓真くん、早くおいで」
社長の秘書として、楓真くんの番として、両方の意味を込めポンポンと空いている自分の隣を促した。
傍から見れば、なんて傲慢なオメガと思われるかもしれない。だけどこれは僕と楓真くんの関係性の話。
楓真くんなら間違いなく―――
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