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1【職場復帰】
1-3サプライズ辞令(3)
しおりを挟む僕達が住むマンションから、保育園と職場は丁度道なりに存在し、道路状況も良好で混むことなく順調に時間より少し早く会社へ到着することができた。
「はい到着です」
「ありがとう、楓真くん」
どういたしましてと微笑む楓真くんは社長になってからも変わらず家と職場の行き来は自ら運転していた。楓珠さんみたいに運転手さんを付けないのかという疑問には、俺が運転すればつかささんと二人での時間が取れるので。と笑顔で即答され、そっか…と聞くだけ聞いてろくに返事も返せずただ俯いた顔がニヤケないようにするのに必死だった。
専用のカーポートへ車を停めエンジンまで切ってシートベルトを外す楓真くんの一連の動作を助手席からついじっと眺めていると、僕の視線に気付いたのか、パチッと目が合う。
ん?と首を傾げながら自然な流れで伸びてきた手が軽く頬に触れ、そのまま僕のシートベルトも外していく。番になって5年近く共に過ごした成果の賜物というのか、楓真くんの不意の気遣いにも「ありがと」と平常心で応えられるようになっていた。
いいえ、と笑った楓真くんと無言で見つめ合う数秒間。膝の上に置いてあった手をそっと取られ、優しく繋がる。知らないうちに自分の手が冷たくなっていたことに温かい楓真くんの手に包まれ初めて気が付いた。
秘かに緊張する僕を労わるように、ふわりと車内に広がる楓真くんの心地よいフェロモン。
楓真くんの体温と楓真くんのフェロモン。
僕の緊張を解すのにこれ以上のものは無かった。
「つかささん、改めて、今日からまたよろしくお願いします」
「こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いします」
まるで嫁入りする時のようなやり取りに、次の瞬間どちらともなくぷっと吹き出し、しばらく車内にはくすくす笑い合う二人の声が充満した。
「それでは、行きましょうか」
「…うん」
つい先程まで細かく揺れていた手の震えも今ではピタリとやみ、しっかりした足取りで地面に足を下ろす。すぐに車を周り隣にやってきた楓真くんと並ぶと更に安心感が増す。
大丈夫、彼の隣は、大丈夫――
ふわりと優しい笑顔を向けられ心強い気持ちで一歩を踏み出した。
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