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5-2 二度目の初夜(2)
しおりを挟む楓真くんに抱かれたまま向かう先は二階の僕の部屋…ではなく、その向かいにある楓真くんの部屋だった。
番になったとはいえここは楓珠さんのご自宅で、一階には楓珠さんがいらっしゃる。おそらく楓真くんと一緒に寝起きを共にしたとしても何も言われることはないだろうけれど、僕が良しとしなかった。寝る直前まで部屋にいるのは許しても、寝る時になったら口酸っぱく部屋に戻るよう言い聞かせる日々が続いていた。
だから今、当然のように楓真くんの部屋に連れて行かれベッドに下ろされるまでの間ずっと猛抗議をし続けた。
「楓真くん、こら、楓真くん!僕の部屋はここじゃないでしょ!」
「同じ屋根の下に居るのにずっと独り寝で寂しいです…」
「だけど、ダメなものはダメ――」
ぼふんっと落とされるベッドはふかふかで、溺れるかのように起き上がるのに苦労していると、それより先に楓真くんが隣に寝転んで来たかと思えば驚くはやさでかけ布団ごとすまきのように抱きしめられ、完全に身動きが取れなくなってしまった。
「ふ~う~ま~く~ん??」と横目でじとーっと見つめるとゴロンと身体を転がされお互い横向きで見つめ合う。
その表情はせっかく整った綺麗な顔をぶぅと膨らませた、ぶさかわいい楓真くんになっていた。今手を動かすことができるのなら、その膨らんだ頬をぶにぶにしたかった。
「せっかくつかささんと番になれたのに全然ラブラブできない…」
「仕方ないよ…楓真くんもお父さんがいる空間は気まずいでしょ?」
「いーえー?俺そこら辺気にしません」
「気にしてください」
どんな時でも僕への想いを隠す事をしない楓真くんのストレートさは嬉しくもあり、時に頭を抱える原因にもなっていた。
「もしかしてこのお預け状態がイヤでお家決めてきた?」
「そうですよぅ~このままつかささんの家に帰すのも癪なんでこの際一緒に暮らしたいなって気持ちが先走りました」
「そうだね…大事な事だから事前に相談はして欲しかったかな」
「……ごめんなさい」
シュンとする楓真くんについ苦笑がもれてしまう。「ね、腕緩めて」と囁けば素直に従う楓真くん。いい子、と笑い布団の中から腕を抜くと、そのまま両手を伸ばし楓真くんの頭を抱きしめる。
「つ、かささん?」
「僕のことを想って突っ走っちゃうのは楓真くんの唯一の欠点かな……でも、嬉しい。ありがとう。一緒に暮らそうか」
「~~っ!つかささん!!俺、もっと頼れるスマートな男になります…7歳差なんて感じさせない落ち着いた大人な男に」
「うん…。だけど、僕は楓真くんを甘やかすのも大好きなんだよたまには年上のお兄さんぶらせてね」
腕の中で上目遣いに見つめてくる楓真くんににっこり笑うと、ちゅっと軽くキスをして離れる。
「さ、終わり。部屋戻るね」
「えぇぇ~今のはそういう雰囲気じゃないんですか!?」
「残念違います。じゃあねおやすみ楓真くん」
「……おやすみなさい愛してます」
「ふふ、僕も」
言い逃げするよう扉を閉め、その閉まったドアに背中をもたれかけるとドキドキする心臓を落ち着かせるため、ふぅ…と深く息を吐く。
正直、危なかった。もう少しあの状態でいたらそのまま許してしまうところだった。
気持ちを切り替えるべく何度も深呼吸を繰り返し、すぐ向かいの自分の部屋に逃げ込むと早々にベッドへ潜り込むのだった。
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