【本編完結】欠陥Ωのシンデレラストーリー

カニ蒲鉾

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5【SS集】

バレンタイン当日(3)

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 楓真くんの指示で途中寄る事になったサービスエリアに速度を落として車が入っていく。
 どうやらあまり大きなサービスエリアでは無いここは最小限の施設があるくらいで、同じように休憩をとるため停車する車がチラホラ見えた。
 
 そんな中、丁度よく空いていたスペースにスムーズに駐車し車は止まった。
 
 「ご苦労さまです」と運転手さんに声をかけ、少し出てくるから休憩しててくださいと話している楓真くんの横顔を眺めていると話は終わったのかこちらに向き直り、にこっと微笑んでくる。
 
 
「つかささん、ちょっと外出て一息つきましょ」
「……うん」
 
 
 先に車を降りていく楓真くんを追いかけるため咄嗟に、借りていた楓真くんのスーツと一緒に小脇に置いていた鞄を手にし、自分側の扉を開けようと手を伸ばすものの、勝手に開く扉。見上げれば先回りした楓真くんが頭上気を付けてくださいね、とさりげなく手で天井をカバーしながらエスコートしてくれる。
 そういうところ、お父さん譲りだな…と笑みを漏らしありがとうと手を借りながら数時間ぶりに地上へと足を下ろした。
 
 外の新鮮な空気を吸いながら僅かに肌寒さを感じ、そこでふと楓真くんのスーツはいま自分の手元にあって薄いワイシャツしか着ていない彼に慌てて「楓真くん」と呼びかける。
 
 
「ずっと借りててごめんね、スーツ羽織って?」
「あ、ありがとうございますちょっとさすがに夜は肌寒いですね…つかささんは大丈夫ですか?すみません羽織れるもの何も持ってなくて…」
「僕は大丈夫だよ。どうする?何か買いたいものとかある?」
「あとで売店覗いてみましょうか、でもちょっとその前に俺に着いてきて貰ってもいいですか?」
「?」
 
 
 整った顔でにっと笑う楓真くんをきょとん、と見つめていると行きましょっと手を取られグイッと引っ張られると手を繋いだままの状態で歩き出す。
 
 
「えっ、あ、楓真くん!?手!」
「大丈夫です!暗いし誰もいないし寒いし!」
 
 
 ねっと笑いながら楽しそうに歩く楓真くんに、まぁいいか…と苦笑をもらし引っ張られるままついていく。確かに楓真くんの手はとても暖かかった。
 
 
 
 
 そのまま歩くこと数分、ぐんぐん進んでいく楓真くんに手を引かれ、人が二人並んでなんとか登れるような狭い階段を登ってたどり着いたのは少し拓けた丘になっている展望台だった。
 言葉も出ないくらい感嘆の表情を浮かべながら手すり際まで近づき辺り一面を見渡す。
 全体的に街灯は少なく、見下ろして眺める山の隙間から覗く街の灯りと、上を見上げて空に輝く星の輝きが、言葉を失うくらい綺麗だった。
 
 
「―――すごい…」
「ね、綺麗ですよね…。はぁー…肉眼で見たら調べた何十倍も良くて安心したぁ…」
「ふふ、調べてくれたの?」
「だって…初めてのバレンタインなのに…本当はお洒落なレストランでディナーデートとかしたかったんですよ?でもどう計画練って計算しても車の中だったから…サイト見まくって泣く泣く見つけた最終手段がコレです」
「そっか……うん、すごく綺麗で感動した」
 
 
 夜景を目に焼き付けながら心から言う感想。
 そんな僕の横顔を眺める楓真くんの視線に気付き、ん?と見上げれば伸びてくる手が頬を撫でさらにじっと見つめてくる。
 
 
「夜景も綺麗ですけど、つかささんの目の中もキラキラしてて綺麗です」
 
 
 そう愛おしそうに言う楓真くんとその背景が見事にマッチし何よりも綺麗で……
 
 
「……楓真くん」
「ん?」
 
「キスしてもいい?」
 
「……」
 
 
 目を見開く楓真くんの返事を待たず持っていた鞄を下におろすと、正面の胸にそっと手を起き精一杯の背伸びをして、ちゅ、と重なったのは唇の少し下だった。
 
 
「……残念、届かなかっ―――ん」
 
 
 苦笑しながら背伸びをやめたタイミングで不意に腰を抱き寄せられ重なる唇は隙間もないくらいぴったりと混じり合う。
 
 今度は僕が目を見開くも、すぐに順応するとそっと目を閉じその唇を受け止める。
 
 気持ちのいい触れ合いにしばらく浸っていると、頬を撫でる手が後頭部にまわりわざと項を掠めていく。
 顕著にビクッと跳ねる僕の反応に、クスッと笑う楓真くん。
 
 
「~~っ、楓真くん」
「あー…かわいい、今すぐつかささんを食べたい」
「!!楓真くん!」
「わかってますわかってます青姦はダメ絶対……だめ?」
「ダメです!!」
 
 
 子犬のような目で見つめられても頑固たる意思でNOを主張する。見えないはずの耳としっぽがしゅん、と垂れる幻が精神攻撃として襲ってくるが、ギュッと目を瞑り追い払った。
 
 
「じゃあ、早く帰りましょ!家まで待ちます…俺はいい子なので……くそ、あと何時間かかる?いっその事運転、俺が代わろうかな…」
「……もう、いい子で後部座席に乗ってなさい」
 
 
 急速に手を取られ既に夜景など未練もないよう回れ右で車まで戻っていく楓真くんのあからさまな下心に照れるどころかもはや苦笑しか無かった。
 
 
 
 
 結局、鞄の奥底に眠り続けた花野井くんと用意したバレンタインのチョコレートを渡せたのは日付が変わったベッドの上。
 周りは脱ぎ散らかした服で散乱していた―――。
 
 
 
 
 《バレンタイン》-END-

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