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5【SS集】

バレンタイン準備編side.楓真

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 side.楓真
 
 
 
 世の中は毎年恒例バレンタインシーズン突入。
 
 留学中の学生時代などは求めてもいないものを贈られるのに気後れしながら、だからといって受け取り自体断って相手を傷付けてしまうのも…と、とりあえず全て受け取るだけ受け取っていた。
 幼馴染からは『楓真のそのスタンスが逆に期待持たせる事になるんだよ罪深ぁい』などと呆れられていたが、とにかく一切興味のなかったそんなイベントも、今年は気合いの入れようが違った。
 
 
 ―――心から愛する番、つかささん
 
 
 やっと出会えた運命の相手と番になれた。
 
 心から贈りたいと想う相手
 相手の喜ぶ顔が見たいという気持ち
 
 自分が欲しいのではなく、相手を喜ばせたいという想いが何億倍も勝っていた。
 

 当日は平日だがどこかいいところでディナーでもしようか、とか、渡す物は何がいいか、とか、とにかくそれをした時のつかささんの表情を想像するだけでニヤけが止まらなかった。
 
 
 
「おーい楓真くん?そのしまりのない表情どうにかしてくれる?この後の会議の打ち合わせに社長の私自ら出向いているんですが?」
「っ、父さ――社長、いつの間に」
 
 
 自分専用の部屋で自分しか居ないと思っていた。が、ノックにも気付かず、社長である父さんが入室してきていることにも声をかけられるまで全く気付かなかった。
 はぁ…と呆れた表情でため息を着く社長にバツの悪い視線を向けながらデスクから資料をかき集め立ち上がる。
 
 
「はいはい仕事します仕事!どうぞそちらにお掛けください社長殿」
「……我が息子殿は何にそんな浮かれてたのかな?」
「………」
 
 
 ソファセットに向かい合って座りながら始まった無言の攻防戦。
 負けたのは――俺だった。
 
 
「……2月14日のバレンタイン」
 
 
 ムスッとしながらボソッと答えるとそれだけで全てを理解した父さんはあー、と頷きながら深くソファへ凭れにこにこ笑ってくる。
 
 
「あー、なるほど。それでいまから浮かれてたってことか。……あれ、でもその日はつかさくん出張で朝も早いし帰宅は遅いはずだけど?」
「は!?」
「というか、楓真くんも一緒でしょ?」
「……あ!」
 
 
 完全に忘れてました、という表情を見逃さない父さんは、はぁ…と再び深いため息を吐くと肘掛についた腕に頭を凭れさせ、じとーと俺を見つめてくる。
 
 
「番に夢中なのはアルファとして仕方のないことだけど、社の代表の立場をもっと意識してよ?出張中つかさくんは楓真くんに付けようと思ってたけど、やめるよ?水嶋くんにガミガミ言われながら出張を過ごす?」
「わたくし御門楓真は、公私混同を控え誠意を持って仕事に務めさせて頂きます!」
「……そうしなさい」
 
 
 いま一度ため息をついた父さんはそれっきりガラッと雰囲気を変え、本題である会議の打ち合わせへと切り替わる。
 顔を突き合わせ真剣に話し合いながらも頭の片隅ではイチから計画を練り直していた。
 
 恐らく当日はまる一日忙しいことが予想できる。
 幸いな事に、仕事とはいえ普段より共にする時間は長い。

 
 さてどうしたものか―――
 
 
 
 
 
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