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3【発情期】

3-19 番(4)

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「な、んで……」
 
 
 椿姫さんの件で強制的に引き起こされ、今回の発情期はあれで終わったと思っていた。だけど、今来ているのは間違いなくその症状。
 長年経験してきた発情期だが、普段と違う点があるとするならば、意識はわりかししっかりしている状態だということ。
 
 
「っ、つかささん、俺、離れた方が――」
 
「行かないでっ」
 
 
 戸惑う僕と同じくらい戸惑った表情の楓真くんが慌ててベッドから降りていこうとするのを咄嗟に腕を掴んで引き留める。想像以上の力で掴んでしまい、あ、と一瞬怯みかけるが、それでも手は離さなかった。
 もう一度、行かないで、と勝手に潤む視線で必死にうったえる。
 
 
 お互い無言で見つめ合うこの間にも刻一刻と発情していく身体。
 
 
「本当に、いいんですか…?」
「いい。いいから……一緒にいて」
 
 
 あなたの番にして―――
 
 
 言葉には出さないその思いを、勇気を振り絞り自ら唇を重ねることで伝えにいく。
 
 
 お願い、楓真くん―――
 
 
 彼が今どんな表情をしてるのか……それを見てしまうことを恐れギュッと視界を閉ざしながら、なんの反応も示さない唇に必死に唇を押し当て続ける。
 
 
「……」
 
 
 やっぱり、いざ番にするとなるとこんな欠陥だらけのオメガじゃダメだったかな……
 じわり溢れてくる涙を必死にこらえ、静かに唇を離そうとしたその瞬間、頭に回った力強い腕が再びその距離をゼロにした。
 
 
「んぅっ」
 
 
 一方的に押し当てていたキスとはまるで違う、僕を求め、与えられるキス。
 
 必死に応えるも、その熱量に溺れてしまいそう。
 
 
 何度も角度を変え唇を混じえながら頭の片隅では不意に今までの発情期を思い浮かべる。初めてのそれを最悪な展開で迎えて以来、常に薬をお供に部屋にとじこもり一人耐えるばかりの発情期。まさか誰かと共に過ごす日が来るなんて、思いもしなかった。
 それが、初めてできた大好きな人と―――
 
 
 そっと離れていく唇。
 お互い以外なにもうつさない瞳。
 
 
「つかささん、つかささんつかささんつかささん……好き、大好き愛してる一生絶対幸せにします」
 
 
 あなたが呼ぶ、つかささんという声が大好きで
 
 
「―――僕も……楓真くんを、愛してます」
 
 
 楓真くん、と呼ぶ自分を好きになれる。
 
 
 
「俺と」
「僕と」
 
「「―――番になってください」」
 
 
 
 
 決して幸せばかりではない人生だった。
 何度も失い、奪われてきた。
 そんな僕の人生でも、大切にしてくれる温かな人たちと出会えたことが何よりも幸運だった。
 
 
 
 楓珠さん―――
 
 常に本当の家族みたいに接してくれる楓珠さん。あなたに拾ってもらえて、僕は安心という感情を思い出しました。拾われたばかりの10代の頃、うなされ眠れぬ僕を懐に抱いて一緒に過ごしてもらえたこと、一生忘れません。
 
 
 
 楓真くん―――
 
 あなたのフェロモンすらわからないポンコツな僕を見つけだしてくれて、ありがとう。人に愛される喜びをあなたは常に教えてくれる。カッコよくてかわいい楓真くん。こんなにも誰かの事を愛おしいと思える日が来るなんて、いまだに信じられないんだ……だけどね、この気持ちは本物。あなたと番になって、家族になれること、本当に夢みたいで、嬉しい。ゆっくり静かに共に過ごせたら、いいなぁ。


 
 これからはずっと、あなたと共に―――
 
 
 
 
 
 外されたチョーカーがベッドの上に無造作に置かれ視界の端をチラチラ掠めている。
 
 もう声は枯れ枯れだった。
 
 熱くて硬い楓真くんを後ろから受け入れながら、何度目かわからない鋭い痛みがうなじを襲う。
 
 
「―――っ」
 
 
 噛まれた瞬間、何度でも熱い熱がぶわっと身体中を駆け巡り、自分は楓真くんの物だと全身全霊でアピールしていた。
 おそらく今頃うなじは酷い有様だろう。
 それが僕が楓真くんの物だと表しているようでもっと噛んで欲しかった。
 
 
 不意にふわりと香る嗅いだことの無い初めての香りが鼻腔をくすぐる。
 無性に惹かれるそれに鼻をくんくん鳴らしその発生源を辿り、行き着くところは、僕を貫きながら僕の血で赤く口を染める楓真くん。

 
 つい、目を見開いてしまった。
 
 奇跡としか思えない。
 
 だって、いままで一切感じることが出来なかった物なのに……
 
 
 
 そう、とても安心する、これは―――
 
 
 楓真くんの、フェロモン………
 
 
「ぁ、あ、……フェロモン、感じる…」
「!?俺のフェロモン、わかりますか…?」
「うん……うん、わかる。爽やかで、優しい、楓真くんの匂い。すごく、いい匂い」
「――つかささんっ」
 
 
 涙で顔をびしょ濡れにした僕の大切なアルファ。
 そこから感じる僕が唯一わかるフェロモン。
 
 
 全部、全部、僕のもの。
 そして、僕の全てはあなたのもの。
 
 
 中の存在を激しく主張するお腹をそっと撫でながら、その甘い律動を受け止める。
 今はまだこの精を受け止めきれない身体かもしれない。
 けれど、いつか、全てを受け入れひとつになれる日が来るまで、何度でも、何度でも、僕を愛してください―――
 
 
 
 
 
     欠陥Ωのシンデレラストーリー〔完〕
 
           ※エピローグに続きます。
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