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3【発情期】
3-6 嫌がらせ(2)
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その知らせが届いたのは出勤時、会社の駐車場に車を停めたのとほぼ同時だった。
メッセージの送り主は例のつかささんストーカー集団のリーダー。
エンジンを切りながらそれを開き、目にした途端、助手席に置いていた鞄をひっつかみ外へ飛び出していた。
速足で正面玄関を通り過ぎ、エレベーターホールまで行く。
必ず全社員が通るだろうそんな場所で、ご丁寧にエレベーター全機の扉に同一文言の貼り紙が貼られている。
【社長秘書T氏は社長と息子を同時に誑かす淫乱オメガ】
「なん……だ、これ」
湧き上がる怒りをそのまま貼り紙にぶつけるよう、勢いよく剥がしていく。
まだ出勤には早い時間帯とはいえ、少なからずこれを目にした社員は居るはずで、こんなモノを貼られたままにしているなんて守衛は一体何をしているのかと怒りの矛先をそちらへ向けてしまいそうになる。
「楓真くん!」
全て剥がし終えた紙をグシャッと握り潰していると、正面玄関をぬけた花ちゃんが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「先輩ストーカー集団のSNSが朝からすごい動いてるけど楓真くん知ってる?」
「さっき個人的に連絡が入ってだいたいは把握してる。来てみたらこれが貼られてた」
シワの入った紙を軽く広げチラッと見せる。
「何これ…酷い」
「犯人はもちろん許さない。だけどそれよりもつかささんの目に入る前に全て回収したい」
現在7時45分。
父さんと共に出勤してくるまであまり時間はない。
「今社内にいる先輩のストーカー達が走り回ってるみたいだよ、まだいない人たちも続々と出勤してくると思う。だけど引っかかるのが、1階エレベーターは第一発見者が剥がしてるはずなんだけど…」
「って事は、人目がないうちにまた貼りに来たって事か…」
続々と出勤してくる社員も増えてきた今、リスクをおかして貼る馬鹿はいないだろう。
だったら、ここを張るより他の箇所を回った方がいい。
「ストーカー集団はどこ回ってるって言ってる?」
「1階からそれぞれ回って今8階まで見終わってるみたいだよ」
リアルタイムで報告があがるSNSを読み漁ってくれる花ちゃん。そのペースなら大丈夫だろう。
「じゃあ俺15階見てくる。あまり一般社員が立ち入れる階じゃないけどおそらく……関係ないだろうから」
「もしかして楓真くん、犯人の検討ついてる?」
「……まぁね。この際完全にしっぽを掴みに行く」
ぐしゃぐしゃになった貼り紙から僅かに残る独特なキツさをもつフェロモン。
いままでこれといって大きな事件はなく表沙汰になってこなかった。だが、今回は完全にアウトだ。何故こんな大胆な行動に出てきたのかは謎だが、この機会を逃してはならない。
エレベーターの上ボタンを押し、呼び寄せる。
「楓真くん、15階以外完了ってリーダーが言ってる」
「そっちは任せてって言っといて」
「はぁい」
やって来たエレベーターに2人で乗り込む。
自然と強くなる力で15と閉じるボタンを押し込み、焦る気持ちを抑え、上がる回数表示をじっと見つめる。
こんな誹謗中傷を、なんでも1人で抱え込む繊細なつかささんには絶対に見せたくなかった。それに、俺や父さんの事まで挙げられ、あの人の事だ、余計責任感を感じるはずだ。
「……楓真くん、僕でもわかるくらいフェロモン出ちゃってるよ」
「あ…ごめん、キツかったよね」
「大丈夫、ちょっとビリビリしたくらい」
パタパタ手で仰ぎ風を送る花ちゃんからできる限りの距離をとる。
怒りでフェロモン調節を忘れるなんて、いままで経験の無いことに素直にビックリした。
落ち着け、怒りで使い物にならない事こそ一番最悪だ。
落ち着け―――。
そう自分に言い聞かせ、15階へ到達しようとする階表示から目を離す。
止まったエレベーターがゆっくり開いていく。
狭い隙間から段々広がっていくエレベーターホール真正面の壁。
「……え」
「花ちゃん?どうし――…は?」
現れた一面には、角度や時間場所もバラバラの、共通点は被写体が全てつかささんという写真が所狭しと貼られ、A4コピー用紙1枚につき1文字ずつ印刷され作られた【淫乱オメガ】の貼り紙。
「なん……だこれ……」
あまりにも異様な光景にどちらもすぐにはエレベーターから降りる事ができなかった。
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