【本編完結】欠陥Ωのシンデレラストーリー

カニ蒲鉾

文字の大きさ
21 / 67
2【1泊2日の慰安旅行】

2-2 旅の始まり(2)

しおりを挟む

 
 楓真さんに続いて集団の元へ向かうと、こちらが見つけるよりも早く、せんぱぁい楓真く~んと呼ぶ聞き慣れた声が聞こえてきた。声の出どころを探すと元気に手を振る花野井くんと隣には瀧川くんが揃って立っているのを発見できた。
 
 
「おはよう、2人とも」
「おはようございます」
「おはようございます先輩!楓真くんもおはよ~私服姿も想像通りのイケメンだねぇ」
「ありがと、花ちゃんもかわいいね」
 
 
 サラッとそう言う楓真さんに見事心臓を射抜かれた花野井くんは、ふらふら瀧川くんにもたれかかりイケメンは罪…と天を仰いで気絶したふりをする。そんな様子に朝から元気だなぁと笑いながら何気なしに辺りを見回す。
 
 相変わらず注目の的だ。
 
 それぞれ親しい者同士が固まって待つこの時間、楓真さんがあらわれてからざわめきはどんどん大きくなっていき、チラチラと送られる視線が十、二十どころの話ではなかった。

 
 楓真さんがこの慰安旅行に参加するという話は社内で瞬く間に広まったようで、たびたび声をかけられている場面を見かけた。
 ぜひ一緒に散策しましょう、とか、宴会の時一緒に飲みましょう、とか、仕舞いには夜部屋へ伺ってもいいですか?とまで聞かれている始末。
 その都度楽しみましょうね、と当たり障りなく躱す姿はさすがとしか言えず、その場面を一緒に目撃した花野井くんも、わぁ…と絶賛していた。
 
『楓真くん、ほんと先輩しか眼中に無いですよね、浮気の心配とか無縁そうで安心~』
 
 そう楽しそうに言う花野井くんにその時はなんと返せばいいのかわからず苦笑するしか無かったが、確かに今も僕と自分の旅行鞄を片腕に下げ、もう片方の手は僕の肩に触れている。この2週間で左後ろには必ずと言っていいほど楓真さんがいるこの距離感が当たり前みたいになっていて他の人にそうしている所は全く想像ができなかった。
 
 
「あ、つかささん、もうバス乗り込むみたいですよ行きましょ」
 
 
 わくわくを全面に表す笑顔の彼を見ているとこちらまで笑顔が伝染する。
 そして考えるより先に体が動いていたらしい……気づいた時には彼の頭をよしよししていて、またやってしまった、と思うくらいには無意識に楓真さんの頭を撫でるという行動はここ最近できた新たな癖と化していた。
 その度に順応力の高い楓真さんは嬉しそうに頭を傾け、撫でやすくしてくれるのだった。
 
 
「でた、ワンコと飼い主」

 
 この光景が見慣れたものという証拠のように、いつの間にか花野井くんにもそう呼ばれるようになっていた。
 

 
 乗るバスは部署ごとで割り振られ、それに乗りさえすれば席は自由となっている。
 僕たちが乗るバスの近くまで行くと自然と人波が割れていき、先を譲られる。楓真さんがいるとはいえなぜそんな親切にされるのか不思議に思いながら大丈夫ですと断っても次から次へと言われ、埒が明かないと判断し譲られるがまま前の方まで出ることにした。
 後から花野井くんに言われてびっくりした事だが、乗り込む順番を先に譲りそのすぐ後を死守する事で楓真さんが座った座席付近を狙いやすくする一種のバトルロワイヤルが秘かに行われていたらしい。

 そんな事が起きているなどつゆ知らず、大きな荷物は途中で係の人に預けバスに積み込んでもらい、身軽な状態でバスへ乗りこむ列へ向かった。
 
 
「つかささんは車酔いとか平気ですか?」
「実は、長距離となると少し心配かもしれません…」
「じゃあ前の方に座りましょうか、タイヤの近くだと余計揺れるので」
 
 
 その提案に頷く僕を確認した楓真さんは前に並ぶ花野井くんと軽く話し、動き出す列の流れに乗る。
 
 花野井くん、瀧川くん、楓真さんの順番で順調に乗っていき僕も続けてバスのステップへ足を掛けようとした。すると、すかさずどうぞと差し伸べられる手。見上げたそこにはニコリと微笑む楓真さんの美しいお顔が僕を待っていた。
 それを目撃したのは僕だけじゃなく、すぐ後ろに並んでいた数多くの女子社員にも容赦なく被弾した。

 
 楓真さん、聞こえていますか、後ろの黄色い声……。僕はとても肩身が狭いです。
 
 
 結局たった数段にも関わらずしっかりエスコートを受けたのだった。
 
 
 
 並んでバスに乗り込むと先に行った花野井くん、瀧川くんがここでいいかなーと前後で席を確保して待っていた。位置にすると運転席側の既に埋まっている1.2列目を飛ばした3.4列目。
 
 
「大丈夫そうです?」
「はい、僕は大丈夫です」
「花ちゃんそこで大丈夫、前座って」
 
 
 おっけーと頭上で大きく丸サインを作る花野井くんを確認し、そこに向けて歩き出す。
 停車中の車内を歩く時も転倒防止なのか、さりげなく手の届く距離で僕の後ろをキープする楓真さんの徹底ぶり。これは本当に、この先の1泊2日が終わる頃には今朝言っていた箸一本持たない程の介助を受けているのではないか、と内心ひやひやする。

 楓真さんが目立つのは仕方がない。

 だけどこれ以上、僕に対してやる事で目立つのは勘弁してほしい。
 
 
 
 そんな願いも虚しく、この人の本領発揮はまだまだこれからだった。
 
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

処理中です...