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1【運命との出会い】

1-19 楽しみ(2)

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 いつ楓真さんが慰安旅行の情報を仕入れてくるのか、秘かにわくわくしながらその日の業務をこなしているとそれは案外すぐの事だった。
 
 
「つかささん!旅行ですよ!」
「はい?」
 
 
 昼休憩まで残りわずか、秘書室の自分のデスクで書類整理をしていると、地下にある書庫へ歴代資料を探しに行ったはずの楓真さんがお目当ての資料を小脇に挟み意気揚々と戻ってきたその足のまま一直線に僕の元まで来てそう言い放った。
 
 
「旅行ですつかささん!花ちゃんから聞きました」
「花、ちゃん…?」
「僕でぇす先輩っ」
 
 
 楓真さんの後ろからひょこっと顔を出すのは案内のため共に書庫へ向かった花野井くんだった。僕より小さい花野井くんは楓真さんと並ぶとまるでかわいいカップルの身長差。
 
 
「楓真くんすっごい紳士ですね…高い所の資料をこう、ヒョイッて取ってくれるし、全部持ってくれるし」
「高い所のもの取ろうとしてプルプルしてる花ちゃん見てたら誰だって助けるよ」
「くぅ~っ紳士~~付き合ってほしぃ~」
「残念、俺はつかささんのものです」
「はいはい知ってまぁす」
 
 
 楽しそうに笑い合う二人はついさっきが初対面だというのにこの短時間で随分打ち解けたようで、さすがコミュ力の塊同士…と僕には到底真似出来ない事に心の中で拍手を送ってしまった。
 その会話内容にはあえて触れない。
 
 
「二人ともすっかり仲良しさんですね」
「お互い利害の一致で同盟を結びました」
「イケメンから花ちゃんって呼ばれる優越感半端ないですねっ幸せそのもの!それに楓真くんは360°どこから見ても至福すぎて目も幸せ~」
「ふふ、ありがと。ぜひつかささんも楓真って呼んでください」
「大丈夫です」
 
 
 すかさず断るとシュンとした楓真さんをどんまいと慰める花野井くん。
 なんだろうか、この二人……見ててとてもほのぼのする。
 
 
「なんか、愉快なでこぼこコンビっすね」
「あ、瀧川くんもそう思った?」
 
 
 実はずっとその場にいた瀧川くんがボソリと呟きまた仕事へ戻っていく。我関せずの態度はとても彼らしい。
 
 再び二人へ視線を戻しながらふと楓真さんが言った利害の一致、という言葉に引っかかる。
 おそらく花野井くんはイケメン関連なんだろうと想像はつくものの、楓真さんは一体何を得たのだろうか。二人を眺めながら考えているとそれが表情に出ていたのかすぐに楓真さんが教えてくれた。

 
「俺が得たのは情報です。花ちゃんの情報網は凄いんですよ、めちゃくちゃ為になる情報をいただけました」
「先輩の基本情報からマニアックな情報まで提供しておきましたっ」
 
 
 ねぇーと言い合うでこぼこコンビ。ほんと勘弁してください。
 
 
「というのは冗談で、この会社の暗黙のルールとかあの人は要注意、とか色々知ってた方がこの先楓真くんもやりやすいかなぁって」
「で、その話の流れから来週の土日の話がでたというわけです」
 
 
 楽しみですね~バスは絶対隣に座りましょうね、とまるで修学旅行にウキウキする学生のように笑顔が絶えない楓真さん。予想通りの反応にこの顔が見たかったのかもしれない、とこちらまで微笑みが出てしまう。
 自然と彼の頭に伸ばしかけた手が、花野井くんのあ、という言葉で中途半端に空中で止まってしまった。
 
 
「でも先輩いつも社長と行動されてますよね…今回も行きから別ですか?」
「え……そうなんですか…?」
 
 
 空中に浮いたままの手をギュッと両手で握られ悲しそうな目を向けられる。やっぱりワンコだなぁ、と思いながら空いた反対の手でトントンと腕をさする。
 
 
「つい先程社長から楓真さんをサポートするように、とお言葉をいただいたので今回は僕もバス移動です。代わりに水嶋さんが社長についてくださるとのことです」
「あ~ボス喜びそうバス移動はクソだって毎回言ってますよね~」
 
 
 今現在も社長の元へ出てここにはいない水嶋さんを想像しながらそれは同感と笑っていると、パァァっと言う音が聞こえてきそうな笑顔を横から感じた。
 
 
「俺たち旅行中は社長公認でずっと一緒ですね!」
 
 
 まるでハネムーンかのようなノリ。違う違う。
 
 
「楓真さんが多くの社員と触れ合えるようサポートする役目を仰せつかっているので、僕のことは空気だと思って他の方たちと親睦を深めてください」
「せんぱぁいいくらなんでもそれは無理でしょ~」
「そうですよ、つかささんが空気になるはずがないです」
 
 
 再び、ねぇーと言い合うでこぼこコンビ。これは、厄介なところでタッグを組まれてしまったのかもしれない。
 
 
「楓真くん楓真くん、先輩は毎年僕と同じ部屋なんですよ……だから夜、協力しますね」
「花ちゃん……っ!必ず俺のこっちのツテ集めてセッティングするから任しておいて」
「楓真くん最高っっっ!イケメン玉の輿!!」
 
 
 キャーっと盛り上がる二人を尻目に、会話は聞いていたらしい瀧川くんと揃って呆れたため息を吐き出していた。何事もなく無事1泊2日すごす事を願うが、そうはいかないんだろうな、と今から先が思いやられる。

 
 おうおうすごい盛り上がってんなぁと社長室から戻ってきた水嶋さんが現れるまで二人のキャッキャ楽しそうな作戦会議はしばらく続いたのだった。
 
 
 
 
 
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