上 下
18 / 64
1【運命との出会い】

1-18 楽しみ(1)

しおりを挟む

 
 運転手の木村さんが社長を迎えに来るまでに無事準備を整え、いつも通り運転席の後ろに楓珠さん、その隣に僕という並びで出勤していた。
 ここに至るまでもまた一悶着があった。

 その原因は、今この車内にいない楓真さん。
 
 
 僕は車内で社長のスケジュールを伝えるという日々の業務がある。だから当然楓珠さんと共に木村さんの運転する車へ乗り込もうとした、が、それを知らない楓真さんは一緒に行きましょうと隣に停まっている彼の車へ僕を呼んだ。
 助手席の扉を開けて立つ昨日と違うスーツを身に纏った彼は、つい先程まで全力の土下座を披露していた人と同一人物とは思えないくらいスマートで大人びている。
 まさかこんな素敵な人が、謝る時は素直に全力で謝ることの出来る人だと知る人はどれだけいるんだろうか…なんて考えてしまっていると───
 
 
「つかささん?」
「あ、すみません楓真さん、社長のスケジュールを車内で打ち合わせするので僕はこちらで」
 
 
 申し訳ないと思いつつお断りをすると、悲しそうな表情を見せた次の瞬間何かに思い至ったのか楓珠さんの方へ目線を向ける。
 
 
「もしかして昨日も朝から一緒にいたのは毎日一緒に出勤してるから…」
「そうだよ、つかさくんがここで暮らしていた時は当然一緒に出勤していたし、今は家を出てしまったから毎朝木村さんと共に迎えに来てもらってる」
 
 
 ずっと一緒、とわざとらしく肩を抱き楓真さんを煽る言い方をする楓珠さん。絶対この人、息子をいじめて楽しんでいる……勘弁してください、と抗議の目線を送るとニコッと微笑みで返されてしまった。
 
 
「さ、行こつかさくん。木村さんを待たせてる」
 
 
 肩を抱かれたまま後部座席左側の扉まで連れていかれると、楓珠さん自ら扉を開け、乗るのを促される。木村さんを待たせているのも事実で、楓真さんへ会釈だけを送りそのまま車へ乗り込んだ。
 僕が乗るのを確認すると優しく扉が閉められ、親子で一言二言会話を交わしている様子が車内から見えるが何を話しているかは聞こえてこない。その会話もすぐに終わり、間もなく楓珠さんも車に乗りこみ車は出発した。
 
 
「楓真さん、大丈夫でしたか」
「大丈夫大丈夫、早くつかさくんを専属にできるといいねってやる気を引き出しといた。でも、そう簡単には私の優秀な秘書はあげないよ、ともね」
「楓珠さん……」
 
 
 ふふ、と楽しそうに笑う楓珠さんを横目に見てから後続車両としてついてくる運転席の楓真さんをチラリと見る。
 改めて、7歳も年下なのにもう既に誰もが知る高級車が似合う大人な男性の楓真さん。いつか彼の下で働く事になったら…そんな風にまた未来の事を考えてしまってる自分に苦笑が漏れた。
 
 


 
「そうだ、そろそろだよね、慰安旅行」
 
 
 ひと通りのスケジュールを伝え終えると楓珠さんが思い出したかのようにそう言い、いつだっけ、と問いかけてくる。自分も楓珠さんの言葉でそういえばと思い出すくらいの認識だったためすぐに日程が出てこず、開いていたタブレットのカレンダーで確認するともうそれは来週の土日だった。
 
 
 うちの会社は毎年決まった時期に新入社員の歓迎と日々の慰安を兼ねて社員全員で1泊2日の旅行にいく。
 強制参加ではないものの、会社のお金で避暑地へ行って飲んで食べてのんびりするこの行事はほぼ全ての社員が参加し、賑やかなものとなっていた。
 
 
「今年は道中、水嶋くんをお供につけるから、つかさくんはみんなとバスで行くといいよ」
「ですが、」
 
 
 楓珠さんの突然の提案にきょとんとしてしまう。恒例の流れとして朝、会社に観光バス数台を用意し社員まとまって行くのとは別に、楓珠さんは木村さんの運転で宿泊地まで向かいいつもは僕もそちらに同行していた。それが突然何故、と不思議に思っていると、ふふ、と笑った楓珠さんが後ろを指さす。
 その先にはまだ後ろを走る楓真さん。
 
 
「楓真くんも参加させるから、少しでも社員と触れ合えるようつかさくんがサポートしてあげて」
「あ、なるほど……承知、致しました」
 
 
 出会ってまだ一日、しかも会社で行く慰安旅行。それなのに、彼と一緒に行動できる1泊2日の旅行が今から少し楽しみに思ってしまった。
 この行事のことを彼は知っているのだろうか、知ったら喜びそうだな、なんて思いつつ自分からは伝えないでおこうと意地悪な事を考えていた。
 
 
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...