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1【運命との出会い】
1-18 楽しみ(1)
しおりを挟む運転手の木村さんが社長を迎えに来るまでに無事準備を整え、いつも通り運転席の後ろに楓珠さん、その隣に僕という並びで出勤していた。
ここに至るまでもまた一悶着があった。
その原因は、今この車内にいない楓真さん。
僕は車内で社長のスケジュールを伝えるという日々の業務がある。だから当然楓珠さんと共に木村さんの運転する車へ乗り込もうとした、が、それを知らない楓真さんは一緒に行きましょうと隣に停まっている彼の車へ僕を呼んだ。
助手席の扉を開けて立つ昨日と違うスーツを身に纏った彼は、つい先程まで全力の土下座を披露していた人と同一人物とは思えないくらいスマートで大人びている。
まさかこんな素敵な人が、謝る時は素直に全力で謝ることの出来る人だと知る人はどれだけいるんだろうか…なんて考えてしまっていると───
「つかささん?」
「あ、すみません楓真さん、社長のスケジュールを車内で打ち合わせするので僕はこちらで」
申し訳ないと思いつつお断りをすると、悲しそうな表情を見せた次の瞬間何かに思い至ったのか楓珠さんの方へ目線を向ける。
「もしかして昨日も朝から一緒にいたのは毎日一緒に出勤してるから…」
「そうだよ、つかさくんがここで暮らしていた時は当然一緒に出勤していたし、今は家を出てしまったから毎朝木村さんと共に迎えに来てもらってる」
ずっと一緒、とわざとらしく肩を抱き楓真さんを煽る言い方をする楓珠さん。絶対この人、息子をいじめて楽しんでいる……勘弁してください、と抗議の目線を送るとニコッと微笑みで返されてしまった。
「さ、行こつかさくん。木村さんを待たせてる」
肩を抱かれたまま後部座席左側の扉まで連れていかれると、楓珠さん自ら扉を開け、乗るのを促される。木村さんを待たせているのも事実で、楓真さんへ会釈だけを送りそのまま車へ乗り込んだ。
僕が乗るのを確認すると優しく扉が閉められ、親子で一言二言会話を交わしている様子が車内から見えるが何を話しているかは聞こえてこない。その会話もすぐに終わり、間もなく楓珠さんも車に乗りこみ車は出発した。
「楓真さん、大丈夫でしたか」
「大丈夫大丈夫、早くつかさくんを専属にできるといいねってやる気を引き出しといた。でも、そう簡単には私の優秀な秘書はあげないよ、ともね」
「楓珠さん……」
ふふ、と楽しそうに笑う楓珠さんを横目に見てから後続車両としてついてくる運転席の楓真さんをチラリと見る。
改めて、7歳も年下なのにもう既に誰もが知る高級車が似合う大人な男性の楓真さん。いつか彼の下で働く事になったら…そんな風にまた未来の事を考えてしまってる自分に苦笑が漏れた。
「そうだ、そろそろだよね、慰安旅行」
ひと通りのスケジュールを伝え終えると楓珠さんが思い出したかのようにそう言い、いつだっけ、と問いかけてくる。自分も楓珠さんの言葉でそういえばと思い出すくらいの認識だったためすぐに日程が出てこず、開いていたタブレットのカレンダーで確認するともうそれは来週の土日だった。
うちの会社は毎年決まった時期に新入社員の歓迎と日々の慰安を兼ねて社員全員で1泊2日の旅行にいく。
強制参加ではないものの、会社のお金で避暑地へ行って飲んで食べてのんびりするこの行事はほぼ全ての社員が参加し、賑やかなものとなっていた。
「今年は道中、水嶋くんをお供につけるから、つかさくんはみんなとバスで行くといいよ」
「ですが、」
楓珠さんの突然の提案にきょとんとしてしまう。恒例の流れとして朝、会社に観光バス数台を用意し社員まとまって行くのとは別に、楓珠さんは木村さんの運転で宿泊地まで向かいいつもは僕もそちらに同行していた。それが突然何故、と不思議に思っていると、ふふ、と笑った楓珠さんが後ろを指さす。
その先にはまだ後ろを走る楓真さん。
「楓真くんも参加させるから、少しでも社員と触れ合えるようつかさくんがサポートしてあげて」
「あ、なるほど……承知、致しました」
出会ってまだ一日、しかも会社で行く慰安旅行。それなのに、彼と一緒に行動できる1泊2日の旅行が今から少し楽しみに思ってしまった。
この行事のことを彼は知っているのだろうか、知ったら喜びそうだな、なんて思いつつ自分からは伝えないでおこうと意地悪な事を考えていた。
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