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動き出す刻(3)sideラルド

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 お互い言葉を発さず続いた無言の時間は突如クオーツ様のため息により破られた。
 
 
「あーあ、長年私が隠しておいたパズルのピースが自然と合わさってしまったか……凄いね、お前たちは。勝手に導きあってしまうんだもの、完敗だよ」
「……」
「恨んでもいいよ、私が二人を引き合わせていれば再会するのにこんなにも長く時間がかかることは無かった。ラズにも隠していたし、今も隠したまま。狡いんだ私は……運命の番だからといって、ラズが私の元を離れていかないなんて確証は無い、安心できない」
 
 
 ソファの背もたれに体を預け、天井を見上げながら語るその姿は、最高権力を持ち頂点に立つ男とは思えない、まるでそこら辺にいる普通の人間の姿。
 
 
「……なんだが、あれですね、常に完璧なクオーツ様もラズ様が絡んだ途端、恋するただの人なんですね」
「は?」
「……いえ。つい、すみません」
 
 
 じとーっと睨まれる視線すらも面白く思えてしまい、くすくす笑いながら回避する。
 「なにさ」と言われ「なんでもない」と返すやり取りがなんだか、懐かしい。


 それもそのはず。
 私たちの始まりは、遡ればもう20年近くも前のことだった───


 ラズ様が生まれ、前世の記憶を思い出すよりも前、純粋にラルドとしての記憶しか所持していなかった時から既に、当時王太子だったクオーツ様の剣の相手として歳の近い私が引き合わされていた。
 
 噂では聞いていた氷の王太子。
 

『よろしくお願いいたしますクオーツ様』
『……』

 
 初めて間近で見てすぐに、あぁこの人は一人で孤独に戦っているのだな、と理解した。
 
 周りの黒い大人達にいいようにされないよう、見えない壁で必死に身を固める幼いクオーツ様。自分より二歳も歳下とは思えないクオーツ様の他人を見る目は全員敵とでも言うように暗く澱んでいたのをよく覚えている。


 果たして私にこの方の相手が務まるのかと心配に思う不安をよそに、剣の手合わせをしていくうちに気付いたこと。
 加減すると怒り、負けると悔しそうにする。
 さぞ当たり前の感情をクオーツ様も抱くのだとわかると同時に接し方もわかってきた。
 
 次第に増えていく会話と、表情のバリエーション。
 

『どうだラルド!僕の勝ちだ!』
『はは、今のは油断しました』
『はぁ?全力でやれ!』

 
 少しずつクオーツ様の人間味も垣間見えるにつれ、この人は氷の王太子ではない。笑うし悔しそうにもする。ちゃんとした人間の子だ。
 
 
 気付けばとっくにクオーツ様に対して、友であり兄弟のようなそんな感覚が芽生えていた。
 

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