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醜い嫉妬(3)sideクオーツ

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 いつかはこうなると覚悟はしていた。

 
 推し活と称してラズが執拗にラルドを追いかけるのと同じくらい、ラズのそばに居るためそもそもの元凶である私に頭を下げ王国騎士団に入りそこからは実力で自分の地位を上げていったラルドの想い。


 双方が抱える事情を唯一把握していたのは私だけ。

 そして、それを黙っていたのも私。

 全てを知っておきながら、運命の番の立場を利用し全てを掻っ攫ったのは───私。
 

 見つけてしまった運命を自分だけのモノにするために国王として使える手段は全て使い、ラズが一生衣食住に困らない豪華な鳥籠を用意し囲いこんだ。
 そうやって手に入れたこのポジション。
 
 後悔は、何も無い───
 
 それでも、この子の隣に居続ける限り、この子の後ろに控えるラルドとセットで視界に入れる度、心のどこかにある罪悪感は一生晴れる事はないのだろう。
 
 
 
「───クオーツ!」
「!」
 
 
 どんどん暗くなっていく思考を急激に引っ張り起こすのは目の前にいる、私の光。
 いつの間に体の向きを変えたのか、正面から同じ目線で向かい合うラズの瞳に、思わず目を細めていた。
 
 
「また、なぁに思い詰めてんの?目死んでるぞ」
「……ラズは、眩しいね」
「はぁ?……え、なにもしかして僕の顔テカってるって言ってる?脂浮いてる?」
 
 
 え、え、と焦りながら自分の顔をペタペタ触るラズの手をそっと取り、握りしめる。
 それはもう、迷子の子供のように。
 
 
「そうじゃないよ。……ただ、ラズとならどんな暗闇でも抜け出せそうだな、って」
「え~、なにそれ。まぁ、頼りにしてくれていいよ。どっかの誰かさんはこの国のトップのくせに、寂しがり屋の構ってちゃんだからね、一生僕がそばに居てやんないと早死にしそう」
「───っ、……そうだよ、ラズがいないと私は死んでしまう」
「はは、大袈裟だなぁ」
 
 
 ぎゅっと抱きしめ腕の中に閉じ込める。
 一生離すことは出来ない。私のラズ。
 
 
 今回ラルドがどういうつもりでこのタイミングをもってラズに打ち明けたのかはわからない。二人が交わした言葉も、あの時最後までは聞いていなかった。
 
 しかし、このやり取りでラズ側の気持ちに大きなゆらぎは無さそうだと確信し、安心した。
 なぜなら、これからますますお腹は膨らみ、出産という大変な大仕事が待ち構えているラズに、俗世との関わりを絶たせ閉じ込めてしまうなんて過酷なことをせずに済む。
 
 
「一緒に、この子を育てていこうな、クオーツ」
「……うん」
 
 
 どす黒い嫉妬の成れの果て。
 起こらないと保証はできない悲劇。
 
 そんないつ爆発するかも分からない闇を抱えた私に想われ捕まり、安心して身を任せてしまう無垢でかわいいこの子が大好きで、大切で、愛おしくて、一生離してあげられない。


 死ぬその時まで、共に───。
 
 
 
 
 醜い嫉妬 -END-

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