上 下
90 / 102

醜い嫉妬(1)sideクオーツ

しおりを挟む



 ふんふん鼻歌が聞こえてくる。
 
 
「なんだか今夜は気分が良さそうだね」
「ん?ふふ…うん、元気」
「そう。よかった」
 
 
 ここ最近は一日を通して青ざめた表情でベッドに横になるラズばかりを見ていたため、夕食時もその後も久しぶりに顔色よく過ごす番の姿を見れてホッと胸をなでおろした。
 
 
 たとえそれが、他の男のおかげだとしても───
 
 
「ふふ、ふふふふ…」
「なぁに、ほんとご機嫌さん」
「え~わかる?んふふふ」
 
 
 寝る前に一読しようと思い持ってきた資料を手に、ベッドの背もたれに背中を預け座っている私の隣で仰向けに寝転がっていたラズはそのままゴロンゴロンと転がってくると私の上に乗り上げてくる。
 番の突拍子もないかわいい行動を嬉しく思いながらラズの後頭部を胸部で受け止め、後ろから抱きしめる形でラズ専用の椅子に徹した。
 
 
「座り心地は如何ですか?」
「苦しゅうなぁい」
「ふふ、それはなによりです」
 
 
 座りやすいよう丁度いい加減で抱きしめながらラズのお腹辺りに手を重ねる。今のところぺったんこのそこに、もうひとつの命が宿っていることが不思議であり、神秘的だった。
 
 
「───僕ね」
「ん?」
 
 
 されるがまま、私の指を1本1本びよんと伸ばしてはぺちんっと弾く遊びでいじってくるラズの後頭部を眺めていると、不意にポツリと呟かれる言葉の続きを静かに聞く。
 
 
「いつも周りにはクオーツやマリンが居てくれて全然寂しくないのに、どこか心の奥底でひとりポツンって取り残された感覚があったんだよね」
「……そうだったんだ。言ってくれればそんな寂しい思いする暇もないくらいたっぷり愛してあげたのに」
「そういうのは間に合ってまぁす」
 
 
 目元に落とす軽いキスを鬱陶しそうに嫌がられる。
 そんな素直な反応に苦笑をもらせば、続きを聞け、と言うかのように手の甲をつねられてしまった。
 
 
「痛たた、ごめんごめんそれで?」
「ふんっ───で、そんなふうに思ってたんだけど、今日それが無くなった」
「……それは、ラルドのおかげ?」
「っ!」
 
 
 晴れ晴れとした表情のラズにただ一言「よかったね」と言えばいいだけのはずが、気付けば口を出た小さな投石はポチャンと僅かな波紋を生む。
 
 おそらく無意識で出たそれは、冷たい棘のある言い方になってしまった。
 
 ばっと振り返るラズに、はっ、と我に返った時には時すでに遅し、きょとん、と見上げてくる表情で次に紡がれる言葉を聞くのが恐ろしく、慌てて自分の言葉を打ち消しに走る。
 
 
「違う、ごめんごめん言葉を間違えてしまった、えっと、寂しい思いが無くなったの?そうなんだそれはよかった───」
「びっくりしたぁ……ほんと、お前は怖いくらいなんでもお見通しだなぁ」
「……え」
 
 
 やり直そうと取り繕う私の焦りを知ってか知らずか、感心するように言うラズのリアクションは拍子抜けするほどあっけらかんとしたものだった。
 
 確実にいやな感じで言ってしまったというのに……
 
 
 この子のこういう、いい意味で鈍感なところにいままで何度も救われてきた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

馬鹿な彼氏を持った日には

榎本 ぬこ
BL
 αだった元彼の修也は、Ωという社会的地位の低い俺、津島 零を放って浮気した挙句、子供が生まれるので別れて欲しいと言ってきた…のが、数年前。  また再会するなんて思わなかったけど、相手は俺を好きだと言い出して…。 オメガバース設定です。 苦手な方はご注意ください。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

スパダリαは、番を囲う

梓月
BL
スパダリ俺様御曹司(α)✖️虐げられ自信無しβもどき(Ω)  家族中から虐げられ、Ωなのにネックガード無しだとβとしか見られる事の無い主人公 月城 湊音(つきしろ みなと)は、大学進学と同時に実家を出て祖父母と暮らすようになる。  一方、超有名大財閥のCEOであり、αとしてもトップクラスな 八神 龍哉(やがみ たつや)は、老若男女を問わず小さな頃からモッテモテ…人間不信一歩手前になってしまったが、ホテルのバンケットスタッフとして働く、湊音を一目見て(香りを嗅いで?)自分の運命の番であると分かり、部屋に連れ込み既成事実を作りどんどんと湊音を囲い込んでいく。  龍哉の両親は、湊音が自分達の息子よりも気に入り、2人の関係に大賛成。 むしろ、とっとと結婚してしまえ!とけしかけ、さらには龍哉のざまぁ計画に一枚かませろとゴリ押ししてくる。 ※オメガバース設定で、男女性の他に第二の性とも言われる α・β・Ω の3つの性がある。 ※Ωは、男女共にαとβの子供を産むことが出来るが、番になれるのはαとだけ。 ※上記設定の為、男性妊娠・出産の表記あり。 ※表紙は、簡単表紙メーカーさんで作成致しました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...