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醜い嫉妬(1)sideクオーツ

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 ふんふん鼻歌が聞こえてくる。
 
 
「なんだか今夜は気分が良さそうだね」
「ん?ふふ…うん、元気」
「そう。よかった」
 
 
 ここ最近は一日を通して青ざめた表情でベッドに横になるラズばかりを見ていたため、夕食時もその後も久しぶりに顔色よく過ごす番の姿を見れてホッと胸をなでおろした。
 
 
 たとえそれが、他の男のおかげだとしても───
 
 
「ふふ、ふふふふ…」
「なぁに、ほんとご機嫌さん」
「え~わかる?んふふふ」
 
 
 寝る前に一読しようと思い持ってきた資料を手に、ベッドの背もたれに背中を預け座っている私の隣で仰向けに寝転がっていたラズはそのままゴロンゴロンと転がってくると私の上に乗り上げてくる。
 番の突拍子もないかわいい行動を嬉しく思いながらラズの後頭部を胸部で受け止め、後ろから抱きしめる形でラズ専用の椅子に徹した。
 
 
「座り心地は如何ですか?」
「苦しゅうなぁい」
「ふふ、それはなによりです」
 
 
 座りやすいよう丁度いい加減で抱きしめながらラズのお腹辺りに手を重ねる。今のところぺったんこのそこに、もうひとつの命が宿っていることが不思議であり、神秘的だった。
 
 
「───僕ね」
「ん?」
 
 
 されるがまま、私の指を1本1本びよんと伸ばしてはぺちんっと弾く遊びでいじってくるラズの後頭部を眺めていると、不意にポツリと呟かれる言葉の続きを静かに聞く。
 
 
「いつも周りにはクオーツやマリンが居てくれて全然寂しくないのに、どこか心の奥底でひとりポツンって取り残された感覚があったんだよね」
「……そうだったんだ。言ってくれればそんな寂しい思いする暇もないくらいたっぷり愛してあげたのに」
「そういうのは間に合ってまぁす」
 
 
 目元に落とす軽いキスを鬱陶しそうに嫌がられる。
 そんな素直な反応に苦笑をもらせば、続きを聞け、と言うかのように手の甲をつねられてしまった。
 
 
「痛たた、ごめんごめんそれで?」
「ふんっ───で、そんなふうに思ってたんだけど、今日それが無くなった」
「……それは、ラルドのおかげ?」
「っ!」
 
 
 晴れ晴れとした表情のラズにただ一言「よかったね」と言えばいいだけのはずが、気付けば口を出た小さな投石はポチャンと僅かな波紋を生む。
 
 おそらく無意識で出たそれは、冷たい棘のある言い方になってしまった。
 
 ばっと振り返るラズに、はっ、と我に返った時には時すでに遅し、きょとん、と見上げてくる表情で次に紡がれる言葉を聞くのが恐ろしく、慌てて自分の言葉を打ち消しに走る。
 
 
「違う、ごめんごめん言葉を間違えてしまった、えっと、寂しい思いが無くなったの?そうなんだそれはよかった───」
「びっくりしたぁ……ほんと、お前は怖いくらいなんでもお見通しだなぁ」
「……え」
 
 
 やり直そうと取り繕う私の焦りを知ってか知らずか、感心するように言うラズのリアクションは拍子抜けするほどあっけらかんとしたものだった。
 
 確実にいやな感じで言ってしまったというのに……
 
 
 この子のこういう、いい意味で鈍感なところにいままで何度も救われてきた。
 
 
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