88 / 128
記憶の共有
しおりを挟む覚えていた……
ラルド様も、前世の記憶を覚えていた───!!
「あ、うぁ、あお…蒼唯っホントに……?本当に、蒼唯、覚えて……」
「お伝えするのが遅くなり申し訳ありません翡翠様」
「なんで、いつからっ」
「初めてラズ様を抱き上げたあの瞬間に前世の記憶を思い出しました」
「っ、最初からじゃんんんん~っうあぁぁぁっ」
首元に抱き縋る僕を膝立ちで受け止めてくれながら背中をぽんぽんさすられる優しい手の感覚が懐かしい。
それが助長するように、さらに声を上げて泣いた。
不意に、いつまでも膝立ちでいさせるのは足が痺れるだろうと気付くと、慌てて抱きつく体勢から離れ、改めて顔を見合わせれば、かぁっと顔に熱が集まるのを感じる。
勢いで抱きついてしまった。
「す、すみませんっ…つい、ラルド様も覚えてたのが嬉しくて……」
「いえ、こちらこそ……」
しーんとお互い黙り込み、気まずい空気が流れる。
「……ラズ様」
「ほんと、嬉しい…覚えててくれて、嬉しい」
止まったと思った涙がまたぽろぽろ溢れ出す。
誰とも共有できない記憶は、どこかひとりぽつんと置いてけぼりをくらったような感覚だった。それがひとりじゃないとわかった安心と、長年勝手に想い続けた相手も自分の事を覚えていた喜び。
言葉にできない思いが溢れて感情が追いつかない状態にただただ涙が溢れて止まらなかった。
ひとり声を殺して泣き続けていると、そっと背中へ添えられる優しい手の感触。
「ラズ様」
「ラルド…様」
多くを語らないその目は間違いなく慣れ親しんだ付き人のそれ。
それが嬉しくて涙を流しながら、ふへっと笑った。
落ち着くまでずっと背中をさすってもらいながら、お互いの記憶のすり合わせをするかのようにどちらともなくぽつりぽつりと語り合う。
それは何度も共にすごした春夏秋冬。
どの季節も、どの思い出も、昨日の事のように覚えている事柄は何時間でも何十時間でも語り続けられそうだった。
「ほら、ラズ様、一口でもいいのでお食べ下さい」
「全部食べる……」
「はは、そうしてください」
ドキドキしながら口にした玉子豆腐は記憶にある懐かしいあの味とよく似ていた。
一口、また一口と口に運んでいく様子を見守るラルド様の視線を感じながら、みるみるうちにお皿の上から玉子豆腐は無くなっていく。
そして───久しぶりに食べ物を完食することができたのだった。
「食べ、れた……」
「よかった…またいつでも作ります」
「うん…また、食べたい」
「はいいつでも」
空いたお皿を引渡しつつ、チラチラと視線を送ってしまう。
「はは、見すぎですラズ様」
「あうぅ…だって、なんか、まだ信じられなくて……ラルド様にも同じ記憶があるなんて…」
「あぁそうだ、ずっと思っていたのですが、私に対する様呼びと、かしこまった口調はできれば無くしてください。あの天真爛漫な翡翠様からしたら違和感が強すぎてラズ様に記憶がある事に結び付かなかった最たる要因です」
「ぐえぇぇっ…ちょっとそれはレベルが高い…です」
「ほら、呼んでみてください」
「う……ラ、ルド」
「はい」
「~~~っ」
心底嬉しそうなはにかみ。
長年推し続けた人からのそんな過激なファンサと、求められた要求でキャパオーバーな頭はいっぱいいっぱいだと悲鳴を上げ、プシューっと湯気を吹き出していた。
───だから、気付かなかった。
影から全てを聞いていた番と、現世話係の存在。
「……いいんですか?クオーツ様」
「いい。積もる話もあるだろうし……もうしばらく二人にさせてあげよう出直す」
「……はい」
寂しげに、パタンと閉じる扉の音すら耳に入らなかった───
720
お気に入りに追加
2,284
あなたにおすすめの小説
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる