89 / 103
記憶の共有
しおりを挟む覚えていた……
ラルド様も、前世の記憶を覚えていた───!!
「あ、うぁ、あお…蒼唯っホントに……?本当に、蒼唯、覚えて……」
「お伝えするのが遅くなり申し訳ありません翡翠様」
「なんで、いつからっ」
「初めてラズ様を抱き上げたあの瞬間に前世の記憶を思い出しました」
「っ、最初からじゃんんんん~っうあぁぁぁっ」
首元に抱き縋る僕を膝立ちで受け止めてくれながら背中をぽんぽんさすられる優しい手の感覚が懐かしい。
それが助長するように、さらに声を上げて泣いた。
不意に、いつまでも膝立ちでいさせるのは足が痺れるだろうと気付くと、慌てて抱きつく体勢から離れ、改めて顔を見合わせれば、かぁっと顔に熱が集まるのを感じる。
勢いで抱きついてしまった。
「す、すみませんっ…つい、ラルド様も覚えてたのが嬉しくて……」
「いえ、こちらこそ……」
しーんとお互い黙り込み、気まずい空気が流れる。
「……ラズ様」
「ほんと、嬉しい…覚えててくれて、嬉しい」
止まったと思った涙がまたぽろぽろ溢れ出す。
誰とも共有できない記憶は、どこかひとりぽつんと置いてけぼりをくらったような感覚だった。それがひとりじゃないとわかった安心と、長年勝手に想い続けた相手も自分の事を覚えていた喜び。
言葉にできない思いが溢れて感情が追いつかない状態にただただ涙が溢れて止まらなかった。
ひとり声を殺して泣き続けていると、そっと背中へ添えられる優しい手の感触。
「ラズ様」
「ラルド…様」
多くを語らないその目は間違いなく慣れ親しんだ付き人のそれ。
それが嬉しくて涙を流しながら、ふへっと笑った。
落ち着くまでずっと背中をさすってもらいながら、お互いの記憶のすり合わせをするかのようにどちらともなくぽつりぽつりと語り合う。
それは何度も共にすごした春夏秋冬。
どの季節も、どの思い出も、昨日の事のように覚えている事柄は何時間でも何十時間でも語り続けられそうだった。
「ほら、ラズ様、一口でもいいのでお食べ下さい」
「全部食べる……」
「はは、そうしてください」
ドキドキしながら口にした玉子豆腐は記憶にある懐かしいあの味とよく似ていた。
一口、また一口と口に運んでいく様子を見守るラルド様の視線を感じながら、みるみるうちにお皿の上から玉子豆腐は無くなっていく。
そして───久しぶりに食べ物を完食することができたのだった。
「食べ、れた……」
「よかった…またいつでも作ります」
「うん…また、食べたい」
「はいいつでも」
空いたお皿を引渡しつつ、チラチラと視線を送ってしまう。
「はは、見すぎですラズ様」
「あうぅ…だって、なんか、まだ信じられなくて……ラルド様にも同じ記憶があるなんて…」
「あぁそうだ、ずっと思っていたのですが、私に対する様呼びと、かしこまった口調はできれば無くしてください。あの天真爛漫な翡翠様からしたら違和感が強すぎてラズ様に記憶がある事に結び付かなかった最たる要因です」
「ぐえぇぇっ…ちょっとそれはレベルが高い…です」
「ほら、呼んでみてください」
「う……ラ、ルド」
「はい」
「~~~っ」
心底嬉しそうなはにかみ。
長年推し続けた人からのそんな過激なファンサと、求められた要求でキャパオーバーな頭はいっぱいいっぱいだと悲鳴を上げ、プシューっと湯気を吹き出していた。
───だから、気付かなかった。
影から全てを聞いていた番と、現世話係の存在。
「……いいんですか?クオーツ様」
「いい。積もる話もあるだろうし……もうしばらく二人にさせてあげよう出直す」
「……はい」
寂しげに、パタンと閉じる扉の音すら耳に入らなかった───
636
お気に入りに追加
2,047
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
【オメガの疑似体験ができる媚薬】を飲んだら、好きだったアルファに抱き潰された
亜沙美多郎
BL
ベータの友人が「オメガの疑似体験が出来る媚薬」をくれた。彼女に使えと言って渡されたが、郁人が想いを寄せているのはアルファの同僚・隼瀬だった。
隼瀬はオメガが大好き。モテモテの彼は絶えずオメガの恋人がいた。
『ベータはベータと』そんな暗黙のルールがある世間で、誰にも言えるはずもなく気持ちをひた隠しにしてきた。
ならばせめて隼瀬に抱かれるのを想像しながら、恋人気分を味わいたい。
社宅で一人になれる夜を狙い、郁人は自分で媚薬を飲む。
本物のオメガになれた気がするほど、気持ちいい。媚薬の効果もあり自慰行為に夢中になっていると、あろう事か隼瀬が部屋に入ってきた。
郁人の霰も無い姿を見た隼瀬は、擬似オメガのフェロモンに当てられ、郁人を抱く……。
前編、中編、後編に分けて投稿します。
全編Rー18です。
アルファポリスBLランキング4位。
ムーンライトノベルズ BL日間、総合、短編1位。
BL週間総合3位、短編1位。月間短編4位。
pixiv ブクマ数2600突破しました。
各サイトでの応援、ありがとうございます。
βの僕、激強αのせいでΩにされた話
ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。
αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。
β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。
他の小説サイトにも登録してます。
スパダリαは、番を囲う
梓月
BL
スパダリ俺様御曹司(α)✖️虐げられ自信無しβもどき(Ω)
家族中から虐げられ、Ωなのにネックガード無しだとβとしか見られる事の無い主人公 月城 湊音(つきしろ みなと)は、大学進学と同時に実家を出て祖父母と暮らすようになる。
一方、超有名大財閥のCEOであり、αとしてもトップクラスな 八神 龍哉(やがみ たつや)は、老若男女を問わず小さな頃からモッテモテ…人間不信一歩手前になってしまったが、ホテルのバンケットスタッフとして働く、湊音を一目見て(香りを嗅いで?)自分の運命の番であると分かり、部屋に連れ込み既成事実を作りどんどんと湊音を囲い込んでいく。
龍哉の両親は、湊音が自分達の息子よりも気に入り、2人の関係に大賛成。
むしろ、とっとと結婚してしまえ!とけしかけ、さらには龍哉のざまぁ計画に一枚かませろとゴリ押ししてくる。
※オメガバース設定で、男女性の他に第二の性とも言われる α・β・Ω の3つの性がある。
※Ωは、男女共にαとβの子供を産むことが出来るが、番になれるのはαとだけ。
※上記設定の為、男性妊娠・出産の表記あり。
※表紙は、簡単表紙メーカーさんで作成致しました。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
馬鹿な彼氏を持った日には
榎本 ぬこ
BL
αだった元彼の修也は、Ωという社会的地位の低い俺、津島 零を放って浮気した挙句、子供が生まれるので別れて欲しいと言ってきた…のが、数年前。
また再会するなんて思わなかったけど、相手は俺を好きだと言い出して…。
オメガバース設定です。
苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる