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最優先事項(2)sideクオーツ

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 その後間もなく、数人の助手を引き連れ駆けつけたラズの主治医である老先生は、さっとラズの様子を確認すると「ここは人の目が多いのぅ」と呟くと場所を寝室へ移すよう指示を出し、それにすぐさま頷くと揺らさないよう慎重に抱き上げた。
 
 
 
 今朝方、久々の開催となるお茶会ゆえ憂鬱な表情を浮かべるラズと別れた寝室にこのような形で再び戻ってくると、さっと先回りしてベッドを整えに行くマリンの後ろ姿を見送った。
 寝室手前の待合ホールでラズを抱えたままソファに腰掛け待機していると、背後ではカチャカチャと忙しなく助手達が走り回る。
 
 
「クオーツ様、お待たせしました」
 
 
 程なくして完了の合図を受けるとすぐさま立ち上がりそちらへ向かい、綺麗に整えられたベッドの中心へそっとラズを横たえた。
 苦しくないよう衣服を緩めると、離れ難い気持ちの表れか、いまだ閉じられた目元から頬にかけ何往復も撫で続けていると「クオーツ様」という控えめな呼びかけに視線だけを寄越す。
 白眉に覆われほぼ見えない目で私を見つめる老先生がどこか困った雰囲気で背後に立っていた。
 
 
「クオーツ様、ラズ様が心配なお気持ちもわかりますが、原因を探るため少しの間我々にお任せ下さいな」
「……お願い」
 
 
 何倍もの人生経験を積んでいる老先生の穏やかな貫禄に今は全てを委ねるしかない。
 一歩下がった途端、老先生率いる医療チームに場所を奪われるようにしてあっという間にベッド周りを固められると、すぐそこの壁際に身を置いた。
 その間、共に庭園から移動してきたラルド、マリン、トールは老先生に指示をもらい各自必要なものを求め足早に寝室から出ていくのを見送った。
 
 
 ラズの周りを様々な道具が取り囲んでいく。
 
 その過程をじっと見守った。
 
 
 ここにいて何か出来る事があるわけではない私に老先生からは「若い助手が緊張するから」と一時的な退室を乞い願われたが、そこは頑として譲らなかった。
 
 どちらかというとラズは、病弱な傾向にあるオメガ性には珍しく身体がすこぶる強い子で、王城で暮らし始めてからいままでの間あまり病気をすることの無い健康体であった。
 だから今こうして、青ざめた顔色で目を閉じるラズの状況を嗅ぎつけた天からの使者がそのままラズを連れて行ってしまうのでは無いか──そう本気で思ってしまうほど、表に出さない不安から片時も傍を離れたくなかった。
 
 
 そんな私の固い意思に折れた老先生は肩をぽんとひとつ叩き、「お好きになされ」と戻っていく。
 無意識のうちに張っていた緊張を見透かされたようでバツが悪い。
 これだからラズの主治医は老先生に任せられる。
 昔から私に物怖じしない、数少ない内の一人だった。
 
 
 
 一通りの検査が終わったのか、ひとつ頷いた老先生は聴診器を外すとこちらへやってくる。
 
 
「クオーツ様、お待たせいたしました」
「……何かわかった?」
「えぇ。説明致しますので、どうぞこちらへ」
 
 
 老先生に連れられ再びラズの枕元へ立つと、入れ替わるようにして助手達が全員退出していく。
 
 気付けば室内には老先生と私、そして意識のないラズの3人だけ。
 シン…と静まり返る空間でその時を待った。
 
 
 そして───
 
 
 
「陛下、おめでとうございます、ご懐妊です」
 
「……あ」
 
 
 ふわりと微笑む老先生の笑みを見て初めて、言われた言葉の意味を理解すると、途端、肩の憑き物がどっと落ちたような、そんな急激に襲いくる脱力感で足元から崩れ落ちそうになるのを堪えるので精一杯。

 
 こんな情けない姿は後にも先にもこれきりだった。
 

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