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妊娠の予兆(5)

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「……ん、ぅ」
「ラズ気が付いた?」
 
 
 目が覚めるとそこは、見慣れたベッドの上。
 広いベッドに一人で横たわる僕をサイドに置いた椅子に腰かけたクオーツが覗き込んでいる。
 
 その表情には心配の色が色濃く浮かんでいた。
 
 
「……ここ…あれ…なんで───」
「お茶会で気持ち悪くなってそのまま気を失ったんだよ。大変だったね、今はどう?」
「……今は…だいじょぶ…」
「良かった」
 
 
 他に誰もいない二人きりの空間で、頭や頬を撫でられながらぼぉっと天井を見上げていると、「ラズ、聞いて」と神妙な面持ちで手を握られる。
 
 そのあまりにも真剣な表情に、ドキッと身構えた。
 
 
「主治医が言うには───」
 
 
 今思い返してみても、未だかつて体験したことの無いような激しい吐き気の原因が、何か重い病気とか言われたらどうしよう───そう思って必死に心の準備を整えようとする僕にクオーツは優しくこう告げた。
 
 
「ラズのお腹にはね、新しい命が宿っている」
「……へ?」
「私と、ラズの子だ」
「僕と…クオーツの……」
 
 
 突然のことすぎて頭が追いつかない。
 確かに、発情期をアルファと過ごしていればその可能性は大いにある。
 けれど、まさかあの吐き気が悪阻から来るものだったなんて……
 
 
 まだ何も変化のないぺったんこのお腹に視線を落とし、そっと撫でてみるが全くと言っていいほど実感がわかない。
 
 黙りこくる僕のリアクションを待つクオーツの顔からは、どことなく緊張が感じ取れる。
 とうとう痺れを切らしたのか「ラズ」と呼びかけてくるクオーツの言葉を遮るようにゆっくりと口を開いた。
 
 
「それ聞いた時さ、クオーツはどんなリアクションした?」
「え?」
「だから、クオーツが先生から聞いた時、一番最初にどんなリアクションしたのかって」
 
 
 じっと目を見て答えを待つ僕に、同じく僕を見つめるクオーツからポツリと呟かれた言葉は、求めていた返答以上の答えだった。
 
 
「……泣いた」
「うわ、マジか…見たかったんだけど」
「やめてよ、人前で泣くなんて赤子以来だったんだから」
「なにそれっ余計見たかったんだけど…!先生だけずるい~」
「ラズ今は真剣に」
「───いいよ、わかった」
「え」
 
 
 不意を突かれたような、いつものクオーツらしからぬ表情が見れただけで満足だ。
 
 
「色々不安だけど、頑張る。頑張って元気な子を産んで、この国の民全員から愛されるような素晴らしい王の子に育てる!んでもってお前は誰よりもこの子を大切にしろ!」
 
 
 ふんすっと息巻いて言い切れば、目を見開く表情から一変、くしゃっと微笑む泣き笑いのような笑みでクオーツが何度も頷いた。
 
 
「……勿論、勿論大切にする、これから産まれてくるお腹の中の子も、ラズも、私が一番愛して幸せにすると約束する、必ず」
「───ん」
 
 
 優しく包み込まれるような抱擁に頭を預け、ギュッと抱き返す。
 
 初め聞いた時は不意打ちすぎて正直びっくりしたが、いつかはそんな日が来ると心のどこかで覚悟は決めていた。
 だから案外すんなり受け入れることは出来た。
 が、初めての事すぎてこれからどんどんお腹が大きくなることやさっき感じた吐き気がまた来るんだろうか、など、全く不安がないと言ったら嘘になる。

 
 けれど、それ以上に番の───クオーツの子を産むのは嬉しい事だった。
 

 この突然舞い込んできた妊娠報告に、周りのみんなはどんな反応を見せるのか…
 家族は?
 マリンは?
 民たちは?
 そして───ラルド様は?
 みんなから祝福されながら生まれてきて欲しい、そう願いながらもう一度、そっとお腹に手を当てた。

 
 
 
 
 妊娠の予兆 -END-
 
 
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