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※番不在の発情期(6)sideクオーツ

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 トールからその知らせを聞いたのは、遠征先で遅い夕食を摂っている時だった。


 途中の食事をそのまま放置し、迷うこと無く体は外へと向かう。
 騎士団員が世話をする馬に予告無しに飛び乗ると、静止を振り切り元来た道を引き返すべく馬を走らせた。
 
 
 夜道だろうが関係ない。
 休むことなく馬を走らせればまだ間に合うだろう。
 
 
 いままでの統計上、発情期が来るにはまだ日にちに余裕があったのと、ラズの様子も特段問題ないと判断した。とはいえ、やはりこんな急な遠征などはじめから拒否するべきだった。
 
 

『夕食以降、ラズ様の様子がどこかおかしいです。もしかしたら発情期が来てしまったのかもしれません』
 
 

 そう伝えてきたマリンに返す言葉を私は冷静に送れただろうか。
 
 
「ラズ―――…」
 
 
 後ろからトールが追いかけてくる気配を感じながら、無我夢中で馬を走らせた。
 
 


 
 *****
 


 
 
 すっかり寝静まった城下町を抜け、馬の嘶きとともに城に到着した。
 ここまでノンストップで走らせた功労者である馬は仕舞いには泡を吹き、よくやった、と手短に労っていると、慌てて近寄ってきた衛兵に引き渡した。
 
 
 静かな城内の入口まで漂うラズのフェロモン。
 
 その香りをスンっと吸い込み、導かれるままラズの元へ急いだ。
 
 
 
 段々濃くなる香りを追って辿り着いたのは、地下に作った専用部屋───ではなく、普段寝起きする二人の寝室へと続く扉の前だった。
 私以外の者にはラズのフェロモンは感知できないとはいえ、力でどうとでもできてしまう環境に身を置いた無防備なあの子と周りの従者の判断に出かけた舌打ちを既で呑み込むと、夜中だろうが容赦なく扉を開け放ち中へと突き進む。
 
 
 おそらく目的地はこの奥、部屋の最奥。
 今ここにラズ一人で無い事は足を踏み入れた瞬間の空気感で察していた。
 ───そして、それが誰なのかも。
 
 
 果たしてこの先に広がる光景が最悪の事態の場合、私は冷静でいられるのだろうか……。
 
 
 そんな考えが頭をチラつくも、足は止まることなく一番色濃く香る番のフェロモン目がけて一直線に向かっていった。
 

 
 数歩も進めば、間もなく。

 辿り着いたそこには予想通りの人物───ラルドがベッド横に立ち尽くし、なにやら驚愕の表情を浮かべながら硬直状態という場面。
 これからどうなっていたのかは知らないが、一旦のところ最悪の事態にはなっていないとわかると、密かにホッと安堵の息を漏らし更にその距離を縮めた。
 
 こちらに気付くよう、わざとフェロモンを流しラズの注意を引きながら名を呼ぶ。
 
 
「ラズ」
 
「クオー…ツ?」
 
 
 途端、ピクっと反応しこちらに向けられた視線に不覚にもゾクッと背筋が震えた。

 自分を満たしてくれる雄を求める熱い雌の目。
 
 立ち尽くすラルドを足早に通り越し、そのまま片足をベッドに乗りあげればすぐさま懐ろに抱き着いてくるかわいい番を優しく包み込む。
 
 
「クオーツ…クオーツ」
「うん、お待たせ、ラズ。遅くなってごめんね、不安だったね。一人でしてたの?上手に出来てえらいね」
「足りな…全然足りない」
「うん」
 
 
 ほぼ四つん這いの姿勢でしなる背中から続く臀部に手を這わせ、熟れた果実のようにみずみずしい双丘の間から溢れる蜜。
 まだ何もしていないのに次から次へと溢れ太ももをつたい落ちていく。
 
 
「クオー、ツ…はやく、そこ、」
 
 
 臀部で止まった手でみせるさらにその先の快楽を期待する目で見つめられる。
 下手したら一瞬で理性を持っていかれそうなほど強烈な誘惑に打ち勝つべく、ラズの後頭部に回した手をぐっと引き寄せ抱き込むと、主導権はあくまでも私だと体に教え込む。
 
 散々濡れたそこに、そっと添えた中指と薬指。
 ぐちゅ…と余裕で二本の指を呑み込んでいく。
 
 
「ぁうぅ……」
 
 
 はく、と息を吐きながら喘ぐ声が耳元で聞こえ、いい子いい子と撫でるように中を掻き混ぜる。
 私の肩に顎を乗せ喘ぐラズの表情は、丁度ラルドの位置から丸見えなことだろう。


 以前遠征時に試した時点でわかっていた事だが、こんなにも無防備なご馳走を目の前に二人きりの状況でも尚、手を出さなかったラルドの精神力は賞賛に値する。
 しかしこれ以上、発情期である番の淫らな姿を第三者に見せたくないというのはアルファの本能的な独占欲なのだろう。
 
 
「ラルド、ご苦労だった。下がれ」
「……は、失礼いたします」
 
 
 何か言いたそうな言葉全てを呑み込み、頭を下げ出ていく姿を見届けるまでもなく、意識はすぐさま腕の中の愛おしい番に集中する。
 
 
「ラズ」
「ぁ…んぅ、あっ、クオーツ、クオーツ───」
「うん、約束どおりたくさん愛し合おう」
「んんぅっ」
 
 
 背後のベッドへ押し倒す重力に従って、ひらりと宙を舞う伸ばされたラズの腕の陰影がユラユラ揺れる天蓋に映し出されていた───。




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