67 / 105
番不在の発情期(2)
しおりを挟む「ぐぬぬぬっ…ふんっ…んんん…っ」
「ラズ様、ご無理なさらずゆっくり息を吐いて。おしりが下がっていますよ」
「はひぃっ……ひっ、ふがっ」
「あー…もう見飽きたなぁこの光景」
「マリン、ぼーっとしてないで、ラズ様にお飲み物とタオルを」
「はいはぁい」
「ふぬぬぬぬっ」
ラルド様が専任になってからというもの、王妃として決められた公務が入っていない日は、軽く庭を走ったり部屋で筋トレを見て貰ったりととにかく体を動かすのが日課となりつつあった。
今日も今日とて、朝の様子で心配されながらも時間を持て余すくらいならと無理を突き通しラルド様に付き合ってもらっていた、のだが―――
「はぁ…、はぁ…おかしいな全然思い通りに体が動かないや」
「やはり今日のところはお休み下さい、本調子で無い時にやっても体を壊すだけです」
「そうですよ~なんか今日のラズ様、汗かく量も尋常じゃないし…大丈夫です?一旦お水たくさん飲んで」
「ん……ありがと」
マリンからタオルと飲み物を受け取り、ちゅーっとストローを咥えながら無造作にソファへ腰掛ける。
筋肉痛が効いているのか、なぜだかいつもより息が上がるのが早い。重だるい体をだらんと脱力しながら見上げる天井はやけに高く見え、次第に視界がグルグル回るかのように錯覚する。
「んぁ~…目が回る…」
「いやいやラズ様重症すぎホント大丈夫?主治医の先生呼びますか?」
「私が走って呼びに行きます」
「大袈裟だって、大丈夫大丈夫。ラルド様もありがとうございます多分慣れない筋肉痛にビックリしてるだけなんで」
元気元気!とアピールして無理やり二人をこの場に留まらせるが、その表情は納得していないのが明白だった。
ただの筋肉痛なのに…とボヤく僕を過保護二人はほっといてくれない。
「はぁー…いててて…でもさこれってあれだよね、筋肉痛の時こそ筋肉を虐めて肉体改造っていうよね、魔改造!」
「……ラズ様ぁ、騎士団によく居る筋肉バカみたいな発言はやめよ?」
「いえ、騎士団員でもこんなに筋肉に飢えてるやつはいません」
どうして突然変な趣味に目覚めたのか…と二人から呆れ顔を向けられるが、僕にだって思うところがあって体を鍛えたいんだ。
いつまでも守られるばかりじゃいられない。
「とにかく!クオーツが不在の間は僕もやる事ないし、少しでも体力付けておきたいの!」
「まぁ確かに、体力使いますもんねぇ…発情期は特に」
「へ?」
突然の予期せぬワードに、ぽかんと反応が遅れる僕ににやっ、と笑うマリンは「とうとう俺も子守りが始まるかぁ~勉強しよ~」と意味深な独り言をもらし、空になったグラスを抜き去っていく。
「!?やっ、別にっ、そういうつもりじゃっ!!ちょっとマリン!!」
「この国の明るい未来のためにも、もりもり体力付けてくださぁい。……あ、トールだ。クオーツ様の旅路は順調みたいですよ」
「~~っ、あっそ!元気にぐーたらしてるって言っといて!」
「しっかり体力付けてクオーツ様の帰りを待ってます、って伝えときますね~ん」
「マリン!!!」
ドッタンバッタン騒がしい僕ら主従と、そんな光景を一歩離れて静かに見守るラルド様。
そんないつも通りの日常に、ただ一つ欠けている番の存在。
その事実を無理やり誤魔化すよう、カラ元気に振る舞っていることに僕自身気付いていなかった。
546
お気に入りに追加
2,063
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
馬鹿な彼氏を持った日には
榎本 ぬこ
BL
αだった元彼の修也は、Ωという社会的地位の低い俺、津島 零を放って浮気した挙句、子供が生まれるので別れて欲しいと言ってきた…のが、数年前。
また再会するなんて思わなかったけど、相手は俺を好きだと言い出して…。
オメガバース設定です。
苦手な方はご注意ください。
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる