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番不在の発情期(2)
しおりを挟む「ぐぬぬぬっ…ふんっ…んんん…っ」
「ラズ様、ご無理なさらずゆっくり息を吐いて。おしりが下がっていますよ」
「はひぃっ……ひっ、ふがっ」
「あー…もう見飽きたなぁこの光景」
「マリン、ぼーっとしてないで、ラズ様にお飲み物とタオルを」
「はいはぁい」
「ふぬぬぬぬっ」
ラルド様が専任になってからというもの、王妃として決められた公務が入っていない日は、軽く庭を走ったり部屋で筋トレを見て貰ったりととにかく体を動かすのが日課となりつつあった。
今日も今日とて、朝の様子で心配されながらも時間を持て余すくらいならと無理を突き通しラルド様に付き合ってもらっていた、のだが―――
「はぁ…、はぁ…おかしいな全然思い通りに体が動かないや」
「やはり今日のところはお休み下さい、本調子で無い時にやっても体を壊すだけです」
「そうですよ~なんか今日のラズ様、汗かく量も尋常じゃないし…大丈夫です?一旦お水たくさん飲んで」
「ん……ありがと」
マリンからタオルと飲み物を受け取り、ちゅーっとストローを咥えながら無造作にソファへ腰掛ける。
筋肉痛が効いているのか、なぜだかいつもより息が上がるのが早い。重だるい体をだらんと脱力しながら見上げる天井はやけに高く見え、次第に視界がグルグル回るかのように錯覚する。
「んぁ~…目が回る…」
「いやいやラズ様重症すぎホント大丈夫?主治医の先生呼びますか?」
「私が走って呼びに行きます」
「大袈裟だって、大丈夫大丈夫。ラルド様もありがとうございます多分慣れない筋肉痛にビックリしてるだけなんで」
元気元気!とアピールして無理やり二人をこの場に留まらせるが、その表情は納得していないのが明白だった。
ただの筋肉痛なのに…とボヤく僕を過保護二人はほっといてくれない。
「はぁー…いててて…でもさこれってあれだよね、筋肉痛の時こそ筋肉を虐めて肉体改造っていうよね、魔改造!」
「……ラズ様ぁ、騎士団によく居る筋肉バカみたいな発言はやめよ?」
「いえ、騎士団員でもこんなに筋肉に飢えてるやつはいません」
どうして突然変な趣味に目覚めたのか…と二人から呆れ顔を向けられるが、僕にだって思うところがあって体を鍛えたいんだ。
いつまでも守られるばかりじゃいられない。
「とにかく!クオーツが不在の間は僕もやる事ないし、少しでも体力付けておきたいの!」
「まぁ確かに、体力使いますもんねぇ…発情期は特に」
「へ?」
突然の予期せぬワードに、ぽかんと反応が遅れる僕ににやっ、と笑うマリンは「とうとう俺も子守りが始まるかぁ~勉強しよ~」と意味深な独り言をもらし、空になったグラスを抜き去っていく。
「!?やっ、別にっ、そういうつもりじゃっ!!ちょっとマリン!!」
「この国の明るい未来のためにも、もりもり体力付けてくださぁい。……あ、トールだ。クオーツ様の旅路は順調みたいですよ」
「~~っ、あっそ!元気にぐーたらしてるって言っといて!」
「しっかり体力付けてクオーツ様の帰りを待ってます、って伝えときますね~ん」
「マリン!!!」
ドッタンバッタン騒がしい僕ら主従と、そんな光景を一歩離れて静かに見守るラルド様。
そんないつも通りの日常に、ただ一つ欠けている番の存在。
その事実を無理やり誤魔化すよう、カラ元気に振る舞っていることに僕自身気付いていなかった。
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