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空席の護衛騎士(3)
しおりを挟む「っは、ぁ、……はっ、」
「ラズ様、ご無理はなさらず」
「きっ…つ…ん、ぅ、……まだ、だいじょー…ぶ、っは、」
「……では、もう一度、息を吐きながら」
「―――くぅっ……はっ、無理ぃぃぃぃっへぶっ」
「はぁー…あんたら会話が紛らわしいわ」
「へ?」
マリンの呆れ顔を尻目に、ぷはぁーっと脱力して床にべしゃっと突っ伏した。
あれから、一通りラルド様と庭園を走った後、的確なアドバイスを貰いながら行う運動がどんどん楽しくなった僕は、そのまま部屋に戻ってからも引き続き筋トレを見てもらっていた。
元鬼の騎士団長様直々の特訓を続ければ、腹筋は綺麗に割れ、上腕二頭筋もムキムキ間違いなし!
もう二度とぷよぷよなどとは言わせない!
誰もが憧れる筋肉質な体型を思い浮かべ、未来の自分に思いを馳せているとマリンの「ラズ様がんばれ~」と飛んでくる気のない応援にむっと膨れる。
ちなみに冒頭のマリンのツッコミはただ腕立て伏せをしていただけ。
生まれてこの方、ろくに鍛えたことの無い貧弱な身体はたった5回で腕がプルプル震え、情けないのなんの……筋肉マッチョマンへの道のりはまだまだ先のようだ。
「一旦休憩しましょう。一気に詰め込みすぎてもお身体を壊すだけですから」
「はぁい」
やんわりかいた額の汗を手でパタパタ扇ぎ、ふぅーと一息ついていると、ラズ様、と呼ばれ顔を上げれば、目の前にはお手を――と差し伸べられるラルド様の大きな手。
咄嗟に反応出来ずぱちぱち眺めていると再び名を呼ばれ、はっと我に返り、おずおず手をのばす。
ぎゅっと握られた手の感触が実にリアルだった。
「ラズ様?」
「え…あ、あっ、すみませっ」
立ち上がってもなお握り続けていた手を慌てて離し、えへっえへへっと笑って誤魔化すしかない。
だいぶ不審者に見えてしまったことだろう。悲しい。
「?タオルをお持ちします」
「お、お願いします」
マリンに案内されながらタオルを取りに行くラルド様を見送り、一人になった空間でぽすんとソファに腰を下ろす。
「ほぇ……」
頑張って平常心を装い過ごしていたものの、実際のところ今日一日で怒涛の推し過剰摂取にぽけーっと放心状態だった。
ほんのり残るラルド様の体温でじんわり温かい手をぼぉっと眺めながら無駄にぐーぱーぐーぱー繰り返していると背後でガチャッと聞こえる扉の音。
「―――ラズ?」
「あ、クオーツおかえ――」
振り返り、目が合ったその瞬間、何故か目を見開くクオーツはぐんぐん大股で近付いてくるため、その距離が一気に縮まっていく。
「何、その表情」
「へ……」
「何がラズにそんな顔をさせているの」
「ちょ、クオーツ待っ――んぅ」
状況が掴めずわけもわからないまま、ソファとクオーツの板挟みにあい、気付けば瞬く間に唇を塞がれていた。
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